第26章 翡翠の誘惑
サラダには半分にカットされたゆで卵が入っていた。貧乏な調査兵団のサラダに野菜以外の… ゆで卵だったりチーズだったりハムだったりが入ることは滅多にない。
上機嫌のマヤは、フォークでゆで卵を刺して顔の高さまで持ち上げた。
「今日はサラダに卵も入ってるし、やっぱりいい日!」
笑顔でゆで卵を頬張ると、卵の白身のように白くてつるんとした頬が少しふくれた。
……卵みてぇだな…。
リヴァイはマヤの顔の輪郭がちょうど “たまご” みたいだなと思って、心の中でおかしくなってくる。
……たまごが卵を食ってやがる…。
そんな風に思えて、自分では全く笑っているつもりはなかったけれど、どうやら顔に出ていたらしい。
「兵長、何を笑ってるんですか?」
もぐもぐとゆで卵を食べながら、マヤが訊いてくる。
「……いや、別に笑ってねぇが…」
「笑ってますよ。わかりにくいですけど、私にはわかります」
「……そうかよ」
少々すねた雰囲気の声色でリヴァイはつぶやいたが、その切れ長の瞳はやわらかくマヤを見つめている。
「そうですよ。昔… ペトラも言ってました、食堂にいる兵長は、やわらかい表情をするって」
「……は?」
「ふふ、ですよね。私も最初聞いたときは、は?って思ったけど、そのときは兵長としゃべったりしてなかったから知らなかったんです。でも今は…、わかります。兵長は思っていたより優しくて、いっぱい笑うって」
「……そうかよ」
今度のリヴァイのつぶやきは先ほどのものよりも、少々照れた雰囲気の声色だった。
「……そうですよ」
ゆで卵を食べ終えたマヤがフォークを置いて、コップに手を伸ばす。
水を少し飲むと、リヴァイの方を見て嬉しそうに目を細めた。
「ところで兵長、“くんたま” って知ってます?」
「……くん… たま?」
ゆっくりと発音するリヴァイの顔は若干怪訝そうだ。
「はい。ミケ分隊長から教えてもらったんですけど、王都の酒場で出てくるおつまみで、卵の燻製です! ホロホロ鳥の」
ミケ、酒場のつまみ、卵の燻製という単語から、急速に “くんたま” が何かを思い出した。
「あぁ、あれか。今、わかった」