第13章 〜君とでなければ〜
天幕に戻った、桜奈は
さっそく、家康の腕の処置をした。
傷口からは、少しずつ出血が続いていた。
消毒をしながら
『痛みますか?』と聞く桜奈。
『大丈夫だから、続けて』と家康。
桜奈は、手際よく処置を終え
家康は、血で汚れてしまった羽織を
着替えた。
それから、桜奈に
『ちょっと、ここに座って』と言うと
謙信に削がれてしまい、不揃いになった
髪を隠すように、桜奈に贈った
簪をつけてくれた。
桜奈は、簪に触れ
自分の元に戻ってきた事がよほど
嬉しかったのか、満面の笑みで
『家康様、ありがとうございます』と
喜んだ。
『うん、桜奈、あとこれも使って』と
懐から簪と一緒に買った紅葉の細工が
施された鼈甲のつげ櫛を手渡した。
『これは!』とぱぁっと明るい表情になると
『頂いてもよろしいのですか?』と
桜奈は目をキラキラさせ言った。
『あっ、うん。傷の手当てのお礼と
あと、酷いこと言ったお詫びで・・・』
語尾は消えそうなほど、小さな声の家康。
『酷いこと?私に?何か言われました?』
『あっ、いや、覚えてないなら
いいんだ・・気にしないで』と
家康がほっとしたのも束の間
『・・・!ああ、夫婦としてやって
行けないとか、今すぐ帰ってとか
仰ったことですか?』
(しっかり、覚えてるし・・・)
『お気になさらないで下さい。
私も、夫婦になれなくてもいいとか』
(グサッ!)
『破談でも構わないとか』
(グサッ、グサッ!)
『もう、二度と再び会わないとか』
(グサッグサッグサッ!)
『*本気*で申し上げて
しまいましたから』ニコッ。
(チーン・・・)
『はっー、やっぱり怒ってるでしょ?』
『いえ、怒ってなんていませんよ?
だってその後に、家康様は一生
側にいてくれないと困るって
仰って下さいましたでしょ?』
『じゃ、あのまま、俺が引き止めて
なかったら、本気で会わないつもり
だったの?』
『はい。安土城に戻った
その足で、二度とお会いしないように
尼寺に行こうと思っておりました。』
と真顔で言う桜奈。
(なんなの、その意思の強さ。
怖すぎるでしょ。はーっ桜奈だけは
絶対、怒らせないようにしないと)と
肝に銘じた。