第11章 〜決意〜
栞は、一つずつ説明しながら
信長に品物を手渡していった。
『これは、スマートフォンといって
遠く離れた人と、話ができたり
文のやりとりが瞬時にできる
器具です。今は、動力が切れて
しまって、使えません。
あとこれは、ボールペンといって
筆のようなものです』と言うと
カチッと芯を出し、手帳に
字を書いてみせた。
『それからこれは、写真と言う
もので、その瞬間の景色を
絵のように映してくれるものです
そして、ここに映っているのが
五百年先の京の都の姿です』
信長と桜奈は驚くように
栞がみせたものに次々と触れてみた。
『確かに、こんなものは
見たこともございませぬ。』と桜奈。
二人は、栞が本当に未来から来たの
だと信じるしかなかった。
『で、栞、貴様はどうしたいのじゃ、
元の世に帰りたいのか?』と信長に
聞かれ
『正直、迷っています。未来で
心配しているだろう両親を思えば
帰りたい。でも、ここで過ごした時間が
あまりにも幸せで離れ難い。
ですから、信長様に決めてもらおうと
思って、本当の事をお話しました。』
『そうか』信長の顔は、一瞬だけ眉を
ひそめ、少し寂しげな瞳をみせたが
すぐに、いつもの冷静な顔になり
『栞、貴様は、元の世に
帰るがよい。』とだけ言った。
栞は内心、相当なショックを受けた。
わしの側から離れるなど許さぬと
言ってくれると、期待していたからだ。
(そうか、やっぱり私は、必要ないって
ことか・・そりゃ、そうだよね・・・)
栞の目には、みるみる涙が溜まっていった。
けれど、涙を零さないように
必死に堪えながら
『分かりました。今まで本当に
お世話になりました。
まだ、通路が開くまで、三週間ほど
あるので、それまでお世話になって
いても、いいですか?』と涙声で聞くと
『好きにせよ』とだけ信長は答えた。
『ありがとうございます。お話は
以上ですので、失礼します』と
一礼すると、栞は部屋から
飛び出していった。
『栞さん!』と追いかけようとする
桜奈に、信長は、『構うな!』と
桜奈を引き止めた。
『信長様!栞さんを手放して
しまって、本当に宜しいのですか?』
と懇願するように尋ねたが
『構わぬ、それがあやつの為じゃ』
と、いつになく、悲痛な眼差しで
桜奈を見た。