第2章 中学生編
紫沫SIDE
誰かに撫でられている感覚がする。
その手はとても優しくて暖かくて、このままずっとそうしていて欲しいと思ってしまう程だった。
微睡みの中ぼんやりとその感覚に浸っていると、何かが近づいてきているような気がしたと思った瞬間、唇に柔らかいものが当たった。
すぐに頭が冴えて、目を開けると、至近距離にあの火傷の痕が見える。
いきなりの出来事に頭が追いつかず、身体が動かない。
しかし、それが離れる様子がなくて徐々に何が起きているのか理解する。
(え…キス、されてる…?)
そう理解した途端に、顔が物凄い勢いで火照っていくのを感じた。
直後、ゆっくり離れていった温もりはやっぱり紅白頭の彼ものだった。
何で彼がここにいるのか
どうして彼にキスされていたのか
訳がわからなくて、私の頭の中はパニックを起こしていた。
「あ…えっ…何で…轟君…」
もはや言葉にならないそれは何かを言おうと必死に口を動かした結果だった。
「悪ぃ…雪水のこと見てたら、触れたくなって、気付いたらキスしてた」
「えっ…あの…いや…えっと…」
全然言葉が出てこない。
相変わらず顔は火照ったままだ。
「…嫌、だったよな」
そう言った彼の顔がとても寂しそうで、胸の奥が締め付けられるような気がした。
「…嫌…じゃないよ…」
嫌だったわけじゃない。
ただ、びっくりして、顔が熱くて、上手く言葉が出てこない。
「…雪水と話さなくなってから、俺の中によくわからねぇもんがずっとあって、今こうやって触れて、それが何なのかはっきりした」
そして、少し間を開け、彼はこう言った。
「雪水、好きだ」
私はまだ夢の中にいるのだろうか?
撫でてくれた手も、キスも全て夢の中の出来事だったんじゃないのか。
まるで現実逃避するみたいに私はその言葉を素直に受け止め切れずにいた。
「別にお前に共有して欲しいってわけじゃねぇ。ただ、伝えたかった。それだけだ」
そう言うと、彼はゆっくり私から離れていく。
なんて馬鹿なことを考えていたのだろうか。
あの優しい手も、キスも、こんなにはっきり感覚が残っているのに、夢なわけがない。
このままでは取り返しのつかない事になってしまう。
まだ頭の中の整理は出来ていないけれど、これだけは今伝えなくてはいけない。
「っ待って!あの…私も……轟君の事が、好き」
.
