第5章 ~石田三成~ end. 【後編】
「戦……?」
「えぇ。少し遠方ですが、大きな戦ではないので、すぐに戻ってこれそうです」
「きょうこすまないな、お前のお産には間に合うように帰ってくるから」
秀吉さんが頭を下げてくる。
「えっ、ええ……そんな……大丈夫だよ!お産に男手はいらないから……それより、殿っ!確りとお務め果たしてきてね」
「はい」
ニッコリといつものエンジェルスマイルを繰り出す三成くん。
そんな私達のやり取りを、秀吉さんが目を細めて見ている。
「こんなに仲睦まじい夫婦になるとはな、きょうこも立派な奥になったな……」
「当たり前だ、俺の目に狂いはない」
後ろから信長様がやって来た。
「暫し三成を借りるぞ、きょうこ」
「ふふ、宜しくお願いします」
「あぁ、腹の稚児の為にも、早く帰ってやらねばな」
そう言いながら、大きくなったお腹を撫でてくる信長様の手は、酷く優しい。
お産に男手は必要ない。この考えは私の親の時代ぐらいまで続いていた。
そんなんじゃないのにね。
本当は愛する人が、側にいるだけで安心する。
でも、きっと伝えても解ってもらえないから、黙っていた。
すると三成くんは、私の手を握って
「出来る限り、文を書きます。きょうこに私の気持ちが届くように」
私が口に出さない不安も三成くんは、察してくれる。
「ありがとう……でも、無理はしないでね」
「えぇ。ですがきょうこに文も書けない方が、私には負担になりそうです」
「ふふ……じゃあ、待ってるからね。私も書くようにする」
メールどころか電話もないこの時代。
不便だけれど、書かれた文字から、気持ちが伝わってくるから、私は手紙がけっこう好き。
まぁ……この時代の文字を読み書きできるまでには、時間を要したんだけどね……