第2章 胸はずむ
「ぁっぶない、大丈夫か原操?」
傾いた視界は切島君のごつごつと骨ばった手に引き寄せられ、彼の、男の人の胸に飛び込む形で受け止められた。普段から鍛えられている体は、とても大きくて、身長はあまり変わらないはずなのに、男の人であることを否が応でも感じさせられた。
お礼を言おうと顔をあげたら、彼との顔の距離が10cmもなくて、お互い恥ずかしくて、どちらからともなくさっ、と離れた。
「ご、ごご、ごめん!ありがとう。」
「お、おう。ほ、ほらやっぱり危なっかしいから俺に送らせてくれ。ダメか?」
赤く染まった頬を恥ずかしそうに掻く彼にもう一度断ろうとするも、先ほどの倒れかけた自分が、その断る理由を遠ざけていく。ここはお言葉に甘えるしかない、と「お願いします。」と頭を下げた。彼は気前良く返事をしてくれた。
そのまま、鞄だけとりに教室に戻り二人で駅へと向かった。彼は家までといってくれたけど、最寄まででいいよ、と私が引き下がらなかった。そこまでしてもらうと本当に申し訳ないし。あと、私イケメンに耐性ないからすっごいドキドキ止まらないから、こんなの意識しないような人いる?いるなら出てきて体感してくれ。うっかり、ころっ、といってしまいそうなほどなのだ。
「切島君、今日は迷惑かけてごめんね。本当に有難う。」
「いいって、いいって!助けるのは当たり前のことだろう?」
「でも、本当に有難う。また明日、学校でね。」
「おう!また明日な。」
閉じていく電車の扉を見ながら、笑顔の切島君に手を振った。彼はまた、嬉しそうに手を振り返してくれる。その姿が愛嬌のいい大型犬に見えてしまうのだから不思議だ。
高校生活初っ端から、こんな青春しちゃってもいいんだろうか。