第2章 桜の前
「…俺のため、だったのか」
『違うっつってんでしょ、何馬鹿なこと私に夢見て「リア、怒らねぇから」!!!………笑う、でしょ…笑いなさいよ。…なんで追ってくんのよ、なんでキスしてんの見せつけられて話しかけてくんのよッ、……意味、分かんない…』
「笑わねぇよ、お前の真剣な気持ち聞いてんのに」
無理矢理つくりあげていた怒りが、抜けていく。
「もしかして、何かに俺の事巻き込まねぇようにって考えてくれた?」
『そ、そんなことで一々私は「違うか。…じゃあごめん、俺人の心情とかすげぇ鈍いから…教えてくれないか」え、…は……い、?』
傅くように膝を着いたそいつ。
いつの間にか私の手を取って、大切そうに握って、まっすぐと私の目を見つめてくる。
『……部下、が…自分の上司に手ぇ出すなって言うの、くらい……当然のこと、だって…わかんないのかしら』
段々と更に小さくなっていく声に…ぶっきらぼうにふてぶてしく放ったその声に、何故だか目の前の人が穏やかな表情をする。
それから、何かを我慢できなくなったかのように、私に腕を回して抱きついてきた……抱きしめてきた。
「なんだよ…分かりにくいんだよ、この馬鹿っ、……俺のために体なんか張ろうとすんじゃねえクソ餓鬼が…、あの場でお前が誰かに怪我させられたらどうすんだよ」
その言葉に、私が読まなかったことで、思い違いがあったことが判明した。
この人…私の事、嫌いになったんじゃなかったの?
私のこと、おかしな奴だって…だから、言い聞かせようって、したんじゃ…
『…慣れてる』
「…うちの部隊長五人もいる中でそんなことしてんじゃねぇよ……俺がいないところでそんなこと、して……何も、されてないな?怪我してないな??」
どうして、私が心配されているのだろう。
攻撃をしようとしたのは私の方。
だからこの人は私を怒ったはずなのに。
「真っ先にお前の味方につけなかったのは、ごめん…けど本当、あいつになんの事情があるにせよ、悪い奴じゃないことには変わりねぇから。…あとは、俺の口が悪いから…嫌な思い、させた。……俺の中じゃ、言葉のあやみたいなものだったんだ」
お前に無理矢理暴行するつもりも、無理矢理抱くつもりも、俺には無い。
考える前に声にされるせいで、ダブってきこえてくる。
『……じゃあ一週間私の事お嬢様呼びね』
「…朝飯前だこの野郎」
