第1章 其の血の味は終ぞ知らず
ロブ・ルッチは戦闘の最中にこそ、脈打つ生を実感させる。
今も、普段の冷静なルッチとちっとも変わらないように見えても、獲物を見定める鋭い眼光や返り血を拭う姿は、獰猛な肉食動物のそれと重なる。
ヒトの形をしてこそいるが、意思疎通を諮ることを躊躇わせる、野生の獣のようだ。
動物系の能力者になるべくしてなったと言っても、過言ではないかもしれない。
しかしながら、喰うために殺す動物と違い、愉しむために殺すという点において、ロブ・ルッチは極めて人間的だと思った。
しかも、彼の持つ一定の理の中で実行される殺しを。
決して神や兵器などではない、彼の人間らしさを見出したことを、おかしなことに、私は少し嬉しく思うのだった。
*
目的地である執務室へ辿り着くと、側近数名を仕留めてあっさり目標を確保できた。
私が目標を尋問していると、残党の動物系能力者が介入してきたが、それなりの額の賞金首であることがわかると、久々に楽しめそうだ、とルッチはレオパルドの姿で応戦する。
能力者同士の闘いは、影響規模が大きくなりがちだ。
特に動物系は、変化形態によってはかなりの巨体となり得る。
既に扉などの破壊音がいくつか響いてしまっており、穏便に終えるのは難しいかもしれない。
私はこれを速やかに対処すべく、脅しを交え文書の所在を聞き出すと、目標は簡単に白状した。
案の定、目標のすぐ隣にある指紋認証の書庫内であるとわかったので、無理やり開錠させ文書を取得した。
目標は指銃でひと突きにして始末した。
「終わったのか」
振り返ると、ルッチの方もちょうど決着がついたようで、元の姿に戻っていた。
表情のわずかな変化から、戦闘中の高揚感からは幾分か解放されているように見える。
足元には、半獣の姿の能力者が仰向けにだらんと転がっていた。
「はい。文書は特徴と一致。目標も完全に沈黙しています」
私はルッチに背を向ける形で、目標の脈を確認する。
では帰還準備を、と言いかけたところで、私は反射的に攻撃の気配を察知した。