第1章 ココアのように甘い貴方と
お風呂で温まってから出てくると、鼻くすぐるような美味しそうな匂いがリビング中に溢れている。
『今日はね、シチューだよ』
なんて言って、おたまでシチューをすくってみせる彼はとっても可愛くて、また私の中の好きが大きくなった。
それから2人で料理とお皿を並べて、少し前に奮発して買っておいたワインをグラスに注いだ。
「『いただきます』」
向かい合って手を合わせる。
そのなんでもない動作が、今日はやけに幸せに思えて、ふふっと笑いを零すと、口いっぱいにシチューを頬張った彼は顔を上げて私を見て首を傾げる。
『何かいい事あったの?』
「ううん、今とっても幸せだなって思ったの」
『そっか。俺も今とっても幸せだよ』
彼はそう言って、テーブルから少し身を乗り出して私の頭をポンポンした。
彼が作ってくれた美味しいシチューを食べて、後片付けまで済ませて少し休もうと、2人でソファに腰掛けた。
「あ、食後にコーヒーいれようか?」
私が聞くと、彼は立ち上がって言う。
『俺がやるから座ってていいよ』
でも、、と立ち上がろうとすると、肩を優しく掴まれた。
『今日まで1番頑張ったのは誰?そんな頑張った人はたくさん休んだほうがいいの』
なんだか訳が分からないけど、今日の彼は甘々らしい。
また胸がほっこりと暖かくなったのを感じた。
・
『はい、ココア』
コーヒーが飲めない私に、彼が入れてくれたのはココア。
一口飲むと、彼みたいに優しくて仄かに甘い味が口に広がる。
「美味しい、」
思わずそう零すと、彼はふふっと笑って言った。
『俺、ココアいれるの天才だから笑』
思わず笑ってしまうと、彼は私を優しく抱き締める。
『そうそう。お前にはいつも笑ってて欲しいんだよ』
彼の言葉は、やっぱり優しくて凝り固まった心にすっと溶け込んでいくようだった。
~ fin ~