第3章 Icy doll
「ふはっ、何が“同じやつ”だよ、ショーター。おまえコーヒーは夏でもホットだろ?」
「げっ、それアイスコーヒーか!」
ようやく我に返った俺を見て、アッシュはまだ笑い続けている。
天使のような悪魔のような・・・やっぱり天使の笑顔。
さっきまで小難しい雑誌を素知らぬ顔で読んでいたとは思えないような、十六歳の飾らない笑顔。
この野郎、俺はアイスコーヒーを飲むと腹を壊すんだよ。
知ってるくせに止めなかったな、コイツ。
「アッシュ・・・そもそも何でこんなとこに呼び出したんだ?」
不愉快さを滲み出しつつ問うと、アッシュらしからぬ野次馬根性的な答えが返ってきた。
「リンクスの奴らがこのカフェにめちゃくちゃ綺麗な女が居るって口々に言うから、どんなのか見てやろうと思って。あのアレックスまで言うんだぜ。さすがに気になってさ」
へえ、あのアレックスがねえ。
実態は知らないが、俺の中でアレックスは勝手に硬派な男としてカテゴライズされていた。
きっとアッシュの認識もそうなのだろう。
そのアレックスがそこまで言うんだ、見てみたい気持ちは分からないでもない。
それに俺を付き合わせるのは勘弁して欲しいが。
「で、読書がてら来てみたらこの有様ってわけ」
「この有様?」
アッシュが呆れたように言う理由が分からず、聞き返した。
「さっき注文取りに来た時気づかなかったのか?見たところこの店にいる男の客の、半分以上はあの店員目当てだぜ」
アッシュが言い終わるや否や、さっきの彼女がアイスコーヒーを運んで来て、俺はすぐにアッシュの言葉の意味を知ることになる。
「お待たせ致しました」
全く待たされてはないわけだが、それにしたって心のこもっていない言葉と共に紙のコースターと氷たっぷりのアイスコーヒー、そしてシロップとミルクが置かれた。
相変わらずの無表情。
今どきはロボットだってもっと愛想が良いはずだ。
「サンキュー」
既に身をひるがえした華奢な背中にそう言いながら、さっきアッシュが“この有様”と言った意味がわかった。
店内の男達が皆、彼女の一挙手一投足に視線を注いでいる。
それもただの視線じゃなく、熱い視線を、だ。
そもそも、今更気づいたがこのカフェには男が多すぎる。