第52章 甦る記憶
二人が出て行くも、何も言わずに顔を背けたままの彼。
主「…宗三?」
私がその濡れた頬に手を伸ばし掛けた瞬間、彼に手首を掴まれ手を引かれてしまう。
体勢を崩し、宗三の上に倒れ込んでしまった。そのまま、私の存在を確かめるかの様に抱き締めて来る宗三。
少し息苦しい程強く、でもこの息苦しさには安心感を覚えた。
宗三「貴女は…うつけです」
主「うん…私、馬鹿だよね。宗三の事…いつもちゃんと分かってあげられない、駄目な家長でごめんね」
宗三「そうやって人の事ばかり考えて、結果…刀剣男士を助けて可笑しな男に目を付けられて…っ」
宗三の肩が震えてる、きっとあの頬を濡らしていたのは彼の涙だったのだろう。
人一倍強がりで弱さを見せない、人一倍心配性な彼。
その優しさは出逢った時から変わっていない…と、何かを思い出したかの様に心の内で呟いた。
宗三「何処にも行かないで下さい…っ」
その声はまるで、喉奥から絞り出した様な…悲痛な訴えに聞こえた。
宗三「僕を失望させた、あの女を忘れさせたのは貴女です。その責任…ちゃんと取って下さい…っ」
唐突に、宗三からのまさかの口付け。
激しさも卑猥さも感じない、ただただ愛しさを行動に表したかの様な…甘く優しい口付け。
そして唇が離れ、宗三の顔を見るとドキンと鼓動が跳ねた。
蝋燭の灯りに照らされ、頬を伝う涙がキラキラと宝石の様に輝いていた。
綺麗だと思った。この世のどんな宝石よりも優しく光るこの雫を、どんな物よりも美しいと思った。