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死の舞踏

第1章 序章


そうして話は冒頭に戻る。

少女は先程問うてきた男の顔を見上げた。

背が異様に高い。180センチはあるんじゃないだろうか。
赤茶色の短髪に、無精髭を少し伸ばしている。紺に白地のストライプが入ったシャツに砂色のトレンチコートを来た、ガタイのいい人だ。

……この人、もしかして人攫いだろうか?
微かに身動ぎした私に、男は逡巡するかのように明後日の方角を見た。

特に行き場所も無いし、夜の街をぶらついていれば何処かの抗争に巻き込まれて死ねるのだ。
特に何の希望も持たず、弱い体を引きずって迷惑がられる毎日から、逃れられるのだ。
その為、夜を待っている…とは流石に面と向かって言えないが、この男を引き止めたまま、例えば今いる路地裏に裏社会の人間でも来たら?死亡希望の私は良くても、彼が重症を負うような事があれば??

……流石に死んでも死にきれないだろう。そう思って「もうすぐ親と合流して家に戻ります」と言いかけた時だった。



先程まで逡巡していた男の顔が、私のすぐ目の前にあった。
「…聞きづらい質問をして済まなかった。君には、行く宛が無いのか?」
いや最初に謝ればいいって問題ではないんじゃ…!?

というよりこの人、人攫いというより真剣に心配してくれてるような…気がする。うん。
病弱で出不精、本が親友の私なりの直感であった。

「両親は亡くなりました。行く所もありません」
正直に質問に答えると、背の高い男性はほんの少しだけ眼を見開いた。
「……そうか。少し、一緒に来てくれないか」
スっと、大きくてゴツゴツした手が差し出された。

「……はい」
そして、なぜだかは分からないが。
この時、この手を取るべきだと瞬間的に思ったのだ。

私は立ち上がり、斜めがけしていた鞄の位置を直すとその人に向き合う形になった。右手を出し、男の手を握る。
ーー見た目に反して、暖かい手だと思った。
「織田作之助だ。お前は何と言うんだ?」

「私?私はーーーーー
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