第16章 君が知らないこと
ぼーっと見つめた先に、何かが蠢いている。
警官だろうか。もしそうならマズい。
焦ってタバコを地面に擦り付けて息を潜めた。
擦るような足音は次第に近付いてくる。
目の前で足音が止まって、万引きする瞬間よりも緊張していて自然と息を止めてしまう。
その瞬間、一瞬目が眩むような光が顔面に当てられた。
「……子ども?こんな時間になにしてんの?」
答える訳にはいかない。今補導されれば、親に殺される。ならば万引きの罪で何かしらの施設になりなんなり入れられた方がマシだ。
しかし、私が無視をしていると
「どこの子?何歳?」
「親御さんは?」
「さっきタバコ吸ってた?」
「家まで送ってあげようか?」
と質問攻めにあい、しびれを切らした私はとうとう相手の男に言った。
「ねえ、おじさん本当目障りだからさ、消えてくんね」
「お、やっと喋った。ねえ、何でこんな時間に出歩いてるの?」
「お、じゃねぇよ。ウザイからマジで。あんた友達いないでしょ」
顔が見えなくてもヘラヘラしているのが分かる。
なんなの本当に。イライラする。
しかし警官ではなさそうだ。灰色のスウェットにアディダスの黒くて平べったいサンダルが目に入った。サンダルの中は五本指に別れてる靴下。
ダサ。
尚更嫌悪感が湧く。
「もしかして、“神待ち”してた?邪魔しちゃったね」
は?何?神待ち?
意味が分からない、と顔に出ていたのか、おっさんは「つまり」と続けた。
「家出した子が拾ってくれる人を待ってる、ってこと」
違うの?と聞いてくるおっさん。私は……
「もしそうならどうすんの」
そう聞いた。すると、
「俺が拾ったげるよ。おいで。寒いだろうし」
後ろを向いて歩き出すおっさん。ポケットに突っ込んだ手に引っ掛けられたコンビニの袋がガサガサ言う。
私は体が痛いのを我慢しながら立ち上がり、おっさんの少し後ろを着いて行った。