第15章 消失
「母さん、俺が恋人を作らないのは、ある女性をずっと愛してるからなんだ」
「……え?」
いるんだ?息子の話は興味深く、一気に集中した。
「その人とは昔、会ったことがあって。また再開したら……別の人と結婚してた」
「ええ……」
胸が痛い。エルヴィンの横顔、表情は変わらない。
「ずっと想っていた、少し忘れていた時期はあったんだ、なのに……また思い出して。子供だった俺はただ見守るしかなかったんだ」
え?子供だったって……幼稚園の先生?ママ友?ご近所さん?
話が急に入ってこなくなった。
「ね、つまりどういうこと?既婚者の人が好きで、その人を想って恋人が作れないってこと?」
「……そうなるかな。で、誰だと思う、その人」
「は……分からないよ。会ったことある?」
幼稚園の先生や、ママ友、ご近所さんを思い浮かべるが答えは見えない。皆に平等な態度だったエルヴィンは、親の私でさえその想い人の予想は難しい。
「本当に分からない、混乱してるし……聞いてもいいの?」
「……怒らない?」
小さい頃のエルヴィンが良く言っていた言葉。大体小さなお願いをしたり、怒られないと分かって言う時に使っていた言葉。
「……うん、言ってごらん」
ゆっくり体がこっちを向いた。真っ直ぐな瞳は月光でキラリと光って、白い肌は透き通るよう。父譲りの髪はキラキラと煌めいている。
「母さん、俺……」
エルヴィンが言いかけた瞬間。ポケットに入れていたスマートフォンが鳴った。エルヴィンに謝って画面を見ると、ミケからだった。出ようとしたがエルヴィンは取り上げて投げた。
「ちょっと……何」
投げられたスマートフォンからエルヴィンに目を移したその一瞬、何が起きたか分からなかった。徐々に理解した頭。
今、最愛の息子が私にキスをしている。4歳のリヴァイがするようなキスじゃない。色を纏った男女のキス。