第15章 新年拝賀3 (謁見の刻)
政宗の声で襖がスッと開かれ、静々と瑠璃が入ってくる。
桜と扇に流れ雲の彩刺繍が施された、
瑠璃紺色の美しい打掛けを引き歩いて来る。
中は濃紅(真紅)色の振袖、白い半衿、
少し見えるは鬱金色の重ね衿。
あわせて、豪華に七宝柄の金黒地の帯。
帯の派手さを締めるのは、勝色(褐色)※の
帯締め。
(うわぁ〜。立って全体を見ると本当に
完璧なコーディネートだよ、政宗)
上座の美弥は、政宗の選んだ着物を
身に纏う瑠璃に見惚れ、釘付けだった。
真紅も瑠璃紺色も瑠璃を引き立て際立たせるが、華美になり過ぎていない。
新年の慶祝を、重ね衿と帯の金色の明るさで演出している。
帯締めの勝色は勝負事に勝つに掛けられた言葉合わせから、帯を締めて武運を祈る。
昨今の流行りだった。
呉服屋の主人が舌を巻いたのも頷けるのだ。
(うっわぁ…政宗さん、相変わらずキッザだな)
(瑠璃様は命の恩人でしたか。
瑠璃様を光らせつつ入込まれた祝恭。
素晴らしい配色です)
(頭が痛え、俺には無理だ……)
(これほどになるとは……馬子にも衣装か)
「政宗、貴様。手の込んだ事をしおって」
信長が恨めしそうに言って笑う。
「新年拝賀ですので」
政宗も誉められ、得意げに返す。
※褐色(勝色)…黒に見える程深い藍、黒に近い紺色