第16章 ワールドトリガー 風間さん
「あら、風間さん以外には全員に渡したの?花奏ちゃん。どうして?」
加古さんが、長い髪を指に絡ませて聞く。また、言いにくいことを、ズバズバと、おっしゃる。
「み、みなさまに、お渡したのは、その、日頃の感謝を込めまして」
「つまり、風間に感謝は、ねーのか!残念だったな、風間!」
ギャハハハハっと、
お腹を抱えて笑う諏訪さん。
いや、笑いすぎだよ。酷すぎだよ。
いや、違うか。
義理すら渡さない
わたしが1番ひどいのか。
「……本当は……」
そう言って、
わたしは口をつぐんだ。
言えるわけがない。みんなに渡したヤツは、失敗作だ。
チョコレートを練りこんだビスケットを作った。完成したのは、まあ、なんとひどいものだった。
おかし作り大好き人間ならば、
失敗など、なかっただろう。
わたしは菓子作りなど、したことがない。 レシピ本は1週間前に買いに行ったのだ。
さらに、適当な性格が混ぜ込んだビスケットは、星を作ったはずが、アメーバーとなり、人形を作ったはずが、宇宙人となった。
ハートを作ったつもりが、歪んで、左右非対称で、ひん曲がったハートが完成した。
それを透明な袋に入れて、
ボーダーの男性陣に渡したのだ。
「味は大丈夫だよ?」と言って渡した。飲み会でイジられるならば、女子に渡せばよかった。いまは素直に思う。
「花奏……違う」
風間さんが言う。
「え? ちがう?」
わたしは
何が違うのか、
聞き返した。
「おれが言ってるのは、赤いチェックの包装されたチョコレートのことだ。あれは誰にも渡してねーだろ」
「っ!?」
「まだ鞄の中に、入ってるのか?」
顎で後ろを示す。わたしは、反射的に後ろを見た。
茶革の
ショルダーバッグがあった。
わたしのだ。
心臓が強く鳴る。なぜ知ってる。
いつ見た。どこで見た。
なぜわかった。
赤いチェックの包み紙の
チョコレートが
後ろに置いた
わたしの
ショルダーバッグの中に
入れたままなのだ。
ハートやら、星やら、
まだ、マシなものを
集めたチョコレートの
ビスケットだ。