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【イケメン戦国】夢と知りせば覚めざらましを

第17章 【信玄編・後編】※R18※


「【惚れた女が泣いていると、抱きしめずにはいられない】病、だな」

信玄はそう言いながら、自由の効く右手を床につくと、ゆらりと立ち上がった。
囲炉裏からの光を信玄の体躯が遮り、竜昌の身体を大きな影が包みこんだ。

「はは、は…」

竜昌は、泣き笑いの顔をくしゃりと歪めるように笑いながら、残ったほうの手甲で涙を拭った。

信玄はそんな竜昌を見つめながら、ゆっくりと歩き始めた。
囲炉裏端を離れ、框を降り、土間に立つ竜昌に向かって、一歩ずつ確かめるように進んでいく。

竜昌の剣の間合いに、信玄が入りそうになった刹那、竜昌の身体がびくりと振れた。体中に緊張が蘇り、剣を持つ手に力が籠る。

「…来ないで」

竜昌の顔から笑みが消え、竜昌は反射的にじりりと後ずさった。
しかし信玄は一瞬 息を呑んだが、そのまま立ち止まらず、ゆっくり、また一歩と近づいていった

「来ないでッ」

さっきよりもはっきりと言った竜昌だが、よく見ると、その刃はわずかに震えている。

少しでも気を許すと飲み込まれてしまいそうな信玄の視線を、竜昌は直視することができなかった。

ドン、という音とともに、竜昌の背中が木戸に行き当たった。これ以上逃げることは叶わない。

やがて、その胸に竜昌の剣が触れそうなほど近づいた時、信玄はやっと歩みを止めた。

「りん…」

信玄の口から、竜昌の名が漏れた。

「頼む…泣き止んでくれ。最後に見る君の顔がこれじゃ、死んでも死に切れない」

「…!」

竜昌は、いつか安土で信玄が言った台詞を思い出していた。

【安土で最後に見る君の顔が、こんな泣き顔じゃ寝覚めも悪い。どうか最後に笑ってくれないか】

きっと今の信玄も、あの時のように赤銅色の瞳を揺らして、切なそうに竜昌を見下ろしていることだろう。

「ずるい…です…」

目を伏せ、信玄の鳩尾のあたりを見つめながら、震える声で竜昌が訴える。

「そうだな、俺は狡い男だ」

信玄は唇の片方を上げてニヤリと笑いながら、竜昌の顔の横に、ドンと手を突いた。

「ッ、ダメ!」

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