第12章 【秀吉・後編】※R18
突然、背後から声がして、政宗は驚いて振り返った。
「なんだ光秀か、驚かすなよ」
政宗の背後には、いつのまにか光秀が立っていた。いつものように、何を考えているかわからない不敵な笑みを浮かべている。
「まーな。罪滅ぼしのつもりなんだろうな…っていうか、お前も手伝ってやれよ。あのままじゃアイツも倒れちまうぞ」
光秀は目を丸くして、政宗の隻眼を見た。
「これは異な事を。秀吉が俺に手伝ってもらって喜ぶと思うか?」
「…それもそうだな」
政宗と光秀は顔を見合わせて笑った。
その日の夕刻、視察先から帰ってきた竜昌は、安土城下の秀吉の屋敷の前で馬を止めた。
『思ったよりも早く帰ってこれた…少しだけ秀吉様にお会いできるかな…』
竜昌が尋ねると、秀吉の家来は快く竜昌を招き入れ、部屋に案内してくれた。最近の秀吉は体調も良く、はやく公務に戻りたいとうずうずしている。しかしまだ家康が首を縦に振らないので、家来たちは秀吉を引き止めるのに苦心しているという。
竜昌が、秀吉の部屋に近づくと、障子の向こうから話し声が聞こえてきた。
「もう大丈夫だから、自分でできるって」
久しぶりに聞く秀吉の声と、ほのかに漂ってくる紫煙の匂いに、竜昌の胸は甘く締め付けられた。
『秀吉様…』
「だーめ、傷口開いたらどうするの!?」
次に聞こえてきたのは舞の声だった。
竜昌の足が止まった。
「はい、あ〜ん」
「しょうがない奴だな」
「だって今までさんざん秀吉に甘えてさせてもらったんだもん!今度は私が甘やかす番だよ」
「はいはい…」
竜昌はしばらく廊下で佇んでいたが、やがて音を立てないようにそっとその場を離れた。
「あれ、藤生様、秀吉様にはもうお会いになられましたか?」
先程 案内してくれた家臣が帰ろうとする竜昌に気づいた。
「あは、私うっかりお見舞いの品を忘れてきてしまって…」
「そうでしたか」
「出直してきます!」
ぺこりとお辞儀をすると、竜昌は春雷にまたがり、秀吉の屋敷を後にした。