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【イケメン戦国】夢と知りせば覚めざらましを

第11章 【秀吉・前編】


「アッハハ…お前らしいな」
秀吉は愉快そうに大きく口を開けて笑った。その無邪気な笑顔に、早朝から走りっぱなしだった竜昌の疲れも癒されるようだった。
「それでこんなに遅くなったんだな。ご苦労さん」
「いえ、大したことでは…」
「疲れているところを呼び立てて悪かった。俺はただあの年貢の報告書のことで…」
竜昌はハッと顔を上げた。
「何か不備がございましたか!?」
「いや、そうじゃない。むしろ近年まれにみる完璧な報告書だった。それで俺はただ礼を言いたかっただけなんだ」
ふう、と竜昌は安堵の溜息をつき、泥だらけの頰にはにかんだ笑みを浮かべた。
「ありがとな、竜昌」
縁側にひざまずいて竜昌を見下ろしている秀吉が、そっと手を伸ばし、竜昌の頭に触れようとしたその時────
「あーやっぱり秀吉まだ起きてた。それにりんちゃんも!?」
夜の安土城には似合わぬ明るい声の主は、やはり舞だった。
ニコニコしながら歩み寄ってきた舞は、秀吉のとなりにペタンと座った。
秀吉は出しかけた手を引っ込めてしまった。
「お夜食もってきたの。お饅頭、みんなで食べよ?」
「お、いつも悪いな」
「ううん全然、武将のみんなががんばってるんだもん。私はこんな応援しかできないけど…」
「舞のおかげで疲れも吹き飛ぶよ。よし、今 茶を淹れてくるからな、待ってろ」
そういって秀吉は立ち上がり、裏方で茶の準備をしにいった。あとに残されたのは竜昌と舞。
「これね、城下で一番おいしいって噂の店の、お饅頭なんだ!」
「ははぁ…」
屈託なく話しかけてくる舞に対して、竜昌がろくに返事もできなかったのは、疲れのせいだけではなかった。秀吉のあの切なそうに舞を見つめる視線を思い出し、竜昌は胸が苦しくなった。

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