第3章 不器用な人 【財前光】
チラッと隣におる先輩を見る。
真剣な眼差しで自身の手元と格闘しとった。
先輩の手元を見ていて気付いたのは力の入れ具合が下手っちゅうことだ。
別に普段から馬鹿力っちゅうわけやないのに、大雑把な所がある様やった。
そないな手元を見ていて、多分また破くんやろうなと思ったその瞬間にビリっとした音が部室に響く。
「あ」
そして先輩の声が部室に静かに響いた。
それから「あー」と叫び声をあげてから先輩は机に突っ伏してしまう。
流石に何度も破いてしもた事に罪悪感を覚え始めたんやろう。
破くごとに完成する花の数も減るのは確かやし、真面目な先輩は流石にもう居た堪れなくなってしまったのやろう。
突っ伏したまま私には無理なんやとぐすぐすと泣き言を言い出した。
そないな先輩に俺はなんて言うたらええか分からなかった。
こないな時、部長ならどういうだろうか?謙也さんなら?
それとも他の先輩らなら――。
そう思った瞬間に自然と手が先輩の背中をさすっとった。
自分の行動に驚いたが、それは先輩も同じ様やった様で背中がビクッと跳ねた。
「財前?」
「はい?」
戸惑った先輩の声が俺を呼ぶ。
正直に慰めてますなんて言っても俺のキャラじゃなさすぎるから自分から何も言う気はなくて、ただただ先輩の背中を撫でた。
名前は呼ばれたが俺が特に何も言う気が無いのを察したのかそれ以上、先輩は何も言わなかった。
背中を擦ることも特に嫌がられへんかったせいで止め時が分からなくなってしまった手は暫く先輩の背中を擦り続けた。
「…もうじき先輩たち卒業なんやね」
この手をどないしようかと思い始めた時に先輩がそうポツリと言葉を漏らす。
ゆっくりと伏せてた上半身を起こし始めたので、それに合わせて自分の手も引っ込めた。
「そーっすね」
「寂しゅうなるなぁ…」
ポツリと漏らす先輩の言葉が哀愁が含まれとるのを感じた。
なんとなく先輩の顔を見れば、寂しそうな横顔が目に入る。
そないな表情を見て、胸がチクリと痛む。
あぁこんな感情、アホくさいなと思った瞬間に、更に自分らしくもないアホくさい言葉が口から自然と出とった。