第1章 Episode of 跡部①
「いい目するねー、俺様が学校まで送ってやるよ」
「は?」
そう言って私の左手首を掴む。
「ちょっと!何してんの離してよ!なんなのアンタ!」
手を振りほどこうにもギリギリと捕まれ振り解けない。
「俺様を“アンタ”よばわりだと?いい度胸じゃねーの。俺様が直々に送ってやるって言ってんだよ」
切れ長の目で見下ろされ、結構よ!いらないわ!と啖呵を切る。
それを聞いて、くっくっと喉を鳴らすその子は余計に腕を掴む力を込めてくる。
「痛い!もう!最低ねアンタ!何度だって言ってやるわよアンタアンタアンタ!」
痛くて鬱血しそうな左腕を離させようと右手を振り下ろすと、パシッといい音と共に、綺麗に左手でキャッチされてしまった。
「へぇ…気の強い女は好きだが、喧嘩を売る相手は間違えない方がいいぜ?」
「なんですって…?」
そう言うとパッと両手を離され、その反動で少しよろめく。
「おっと…」
その身体を運転手の男の人が支えてくれた。
ありがとうございます…お礼を言うと
「急げ。俺様に遅刻なんてさせるんじゃねぇ」
そう言って後部座席に乗り込むあいつ…
「はっ…はいっ…ただいま…!」
男の人は私に本当に申し訳ありませんと深々と頭を下げ、何かあればここに私宛にご連絡いただけますか?と名刺を取り出し私に渡した。
小走りで車に乗り込むと、もう一度会釈をして車を出す。
走り出した車の後部座席の窓からあいつの顔が見えて、私の方を見てニヤリと笑っていた…
ほんっとなんなのよあいつ…偉そうに…
私もよそ見してたし車にも当たってないし文句言えないし…
行き場のない腹立たしさでモヤモヤしながら渡された名刺を見ると
「跡部…財閥…?」
あいつの名前かな?
なんだっけ…景………景吾…。跡部景吾……。
擦りむいた肌と手首が痛む。
最悪の朝になってしまったけど、私はそのまま学校へと向かった。