第9章 喪失
私たちがトロスト区の外門をくぐったのは、日が傾きかけてきた頃だった。
沿道にはたくさんの人たちが集まってきていて、調査兵団の凱旋をひと目見ようと、皆背伸びをしてこちらを見ていた。
私は馬から降りて、たずなを引きながら人だかりの間を歩いていく。
「調査兵団だっ!かっこいいー!」
すぐ横から子どもの弾んだ声が聞こえてきて、私は思わずそちらに目を向けた。
視線の先には、大人たちの身体の間から何とか顔を出している少年の姿があった。
「こんなにボロボロになっても戦い続けているなんて!」
そう声を張り上げる少年の頬はうっすらと紅潮して、その瞳はキラキラと輝いていた。
(エリク……)
その姿に私は、弟の姿を重ねてしまった。
弟も、調査兵団が壁外調査から帰ってくるたびに、はしゃいで見に行っていた。自己犠牲の精神で勇敢に戦う兵士たちに、英雄の姿を見ていたのだ。
今、沿道で笑顔を浮かべている少年を見て分かった。あの無邪気で純粋な思いは、世代を超えて引き継がれていくものなんだ。
(エリク…姉さんは、調査兵になったんだよ。すごいでしょ…)
今にも沿道でエリクが、「姉さん、カッコイイ!」と飛び跳ねている姿が目に浮かぶようで、私はそっと目元を拭ったのだった。