《モブサイ》サギ師のあなたに脱がされて (霊幻/R18)
第6章 温泉旅館でときめいて
《霊幻side》
「それではごゆっくりおくつろぎください」
旅館の仲居が襖を閉めると、部屋はとたんに静かになった。各々の前に置かれた一人用の牛鍋だけがグツグツとうまそうな音を立てている。
目の前に並んだ豪華な料理に俺は思わず喉を鳴らした。
「よし、ゆめ。早速食べるか」
「はい!」
ゆめはすでに箸を構えてスタンバイしていた。
乾杯もそこそこに食べ始める俺たち。
「それにしても疲れたな。さすがに歩きすぎたぜ」
「ふふっ。霊幻さん、途中でバテてましたね」
ゆめが天ぷらを頬張りながら微笑む。
「まぁ、普段まったく運動していないからな……」
俺も刺し身を口に運んだ。
高速に乗ってから三時間。特に渋滞にも巻き込まれず、予定通り温泉についた俺たち。
ガイドブックにあった地鶏料理の店で昼食をとり、そのあとはのんびり温泉街を観光して回った。
たっぷり歩き、二人ともヘトヘトになってこの旅館にチェックインしたというわけだ。
「霊幻さん、素敵な旅館でよかったですね。温泉も露天風呂で広いみたいですよ」
ゆめがウキウキと鍋の蓋を取る。
たしかにいい旅館だ。山の中にあって静かだし、窓からの眺めもいい。客室も広く掃除が行き届いているし、従業員もみな親切だ。
そもそも温泉に来るなんて何年ぶりだろうか。仕事せず、のんびり過ごすのも久しぶりだ。
「最近は霊だの超能力だのに振り回されてばかりだったからな。久々に心霊現象の話も聞かなくて済むし、ホッとするな……」
ゆめが箸を止めた。
「たしかに依頼の話を聞かないのは久しぶりですよね! 高速ではびっくりしましたけど、霊ってどこにでもいるから、それぐらいはしかたないですよね〜!」
「は? 高速?」
なんの話だ?
ゆめはまた料理をつつき始める。
「もうっ、霊幻さんってば! 気を使わなくても大丈夫ですよ! 血だらけの霊でしたけど、悪さもせずに離れてくれてよかったですね! 高速の途中でついてきたときはどうしようかと思いましたよ〜! 霊幻さん、平然としてるんですもん。さすがですね!」
「…………」