第6章 酔いの代償 〈完〉
もぞっもぞもぞ
葵が動き出した気配を察し目を開ける
目が覚めきったのか
襦袢の前を手であわせて身体を起こしたところだった。
「昨日って…?」
「えっ?」
顔を恥ずかしそうに赤らめて
俯いていた葵が顔をあげ、目が合う
なぜこうなっているのか分からないという顔をした家康をみて
みるみる顔が青ざめていく
「昨日の事、覚えて、いない、、の?」
「‥‥」
余りにも辛そうな顔に何も言えなくなる
答えないのを肯定にとったのか、瞬きを忘れた目から涙が一筋流れた
胸がキリっと痛む
涙をぬぐおうと手を近づけると…
避けるように俯き
今まで聞いたことの無いほどつらそうな声を出す
「…なにもしてない!なにもなかった
私が間違えてここで寝てしまっただけ!
もう忘れていいから
私も忘れたいし
まいったなー飲み過ぎちゃったな~これからは気をつけないとねぇ」
後半は無理に明るい声を出そうとしているのが分かって、より辛さが募る
顔をあげ、家康の方を見ないまま、無理に笑顔をつくる
さっと立ち上がり、
褥の周りに散乱していた自分の着物や帯を集め出す
「ごめんね、迷惑かけて
私部屋にもどるね
あっ隣の部屋、昨日飲んだままになってるの
申し訳ないけど誰かに片付けてもらって
じゃ隣の部屋で着替えさせてもらうね」
逃げるように隣の部屋にいってしまう
家康は
隣の部屋から聞こえてくる
急いでいるような衣擦れの音と
遠ざかっていく足音を聞いている事しかできなかった
(くそっ最低だ。こんな失態今までしたことがない。
葵の涙を拭おうと宙に止まっていた手を握りしめ項垂れる
何でこんなことになったんだ…
あの子にあんな顔をさせるなんて…)