第2章 出会い
力を入れてるのにピクリとも動かない。
人差し指で顎を固定されると上を向かせられ首筋が露になる。
『このまま食べてもいい?』
耳元でそう聞こえた気がしたけれど彼は一言も喋ってはいない。
でも彼の顔はすぐ目の前で動けないしこのままじゃ食べられると思ったその時だった。
肩を揺らしながら笑いを堪えている彼が視界に映った。
暫く何が起こったのか理解出来ずに固まっていると
“壮五さん油断しすぎ。そんなんだから電車内で変な奴に狙われるんだぜ?”
「…揶揄ってる?」
“まさか。さっきのやつ俺がいなかった場合の実演ってやつ?もう体動くだろ?”
その一文を読んで手先を動かしてみる。
「…!ホントだ…。」
“今俺が実演した事が俺じゃなくて本当に別な奴だったら今頃壮五さんは散々弄ばれて捨てられてたかもな~?”
「!?何でそんな事…?」
“分かるのかって?”
「うん。それにさっきのは一体?」
“…教えてやりてぇけど時間だ。”
そう書くとスマホのアラームを見せてくれた。
画面には“そろそろ移動の時間”と書かれていた。
「!まだ聞きたい事が…!」
そう言うとスマホと先程貰った紙切れを指差す。
彼の意図が分かると
「…追って連絡します。」
“帰り充分気をつけろよな?じゃあまた。”
最後の一文を見せると彼は微笑んで店を後にした。
彼の姿が見えなくなるのを確認すると僕は暫くその場を動けずにいた。