第37章 幼い恋の先(三成)
(まさか…)
忘れる訳がない。
忘れられる訳がない。
心の奥に何年も想い続けていた人の声。
幼少時からずっと慣れ親しんだ、愛おしい声。
間違える訳がない。
(華月様っ)
光秀の密偵への情報提供者、
内部工作者は華月だった。
光秀が肩に手を置いて、行き過ぎてゆく。
駆け寄って抱きしめて、笑いあいたい。
はやる気持ちを抑え、平常心を装い、
穏やかな笑みを見せ、
ゆっくりと歩いて近づくのは容易ではなかった。
「お久しぶりですね。華月様」
三成がそう、微笑みかけると、華月が両手で口元を覆った。
そして、眉を寄せたかと思うと、
みるみる涙が溜まって、
溢れ落ちた。
「っ…み………」
泣いて声にならなかった。
三成は華月を抱きしめてから、
もう一度顔を見た。
「お変わりありませんでしたか?とは聞いてくださらないのですか」
三成の温和で爽麗な眼差しが、笑顔に輝く。