第1章 真島という男
真っ直ぐに見つめる真島の眼差しに、雅美は顔を赤らめながら俯いている。
部屋から見える神室町の夜景なんかよりも、
雅美の姿を見ているだけで癒されていく。
人工的に作られた光とは全く比べものにならないほどに。
「心配かけてほんまにすまんな」
真島はそう言うと雅美を自分の胸元に優しく引き寄せ抱きしめた。
小柄な雅美の体は真島の腕の中にすっぽり包まれて、その温もりはとても心地がいい。
「やっぱり…真島さんの体、熱いです」
真島の胸元に顔を密着してる雅美がそっと囁く。
「雅美ちゃんの顔熱いで?恥ずかしいとちゃうか」
「そんな事……、ないもん」
地肌に感じる雅美の熱。
きっと顔を林檎のように赤くしているに違いない。
嘘が下手なところも、
愛しくてたまらなかった。
「……雅美ちゃん。やっぱし俺、雅美ちゃんの事めっちゃ好きや。可愛い過ぎてしゃーない」
雅美を抱きしめる腕に思わず力が入る。
愛の告白をしても雅美からの言葉は無い。
それでも真島は囁き続けた。
「ほんまこのままずっとこうしてたいわ……。雅美ちゃんを何処にも帰したない」
ここまで真島を素直にさせたのは、
率直な思いをぶつけないと雅美に伝わらないと感じたからだった。
今だけじゃない、店で話してるときも全て。
それぐらい雅美の事を真剣に思っていた。
しばし2人だけの時間が流れた後、雅美の手持ちバックから微かにバイブ音が聞こえてきた。
「……ごめんなさい、携帯鳴ってる」
真島は腕の力を弱めて雅美を解放すると、雅美はそのままバックを開け携帯を取り出した。
その着信画面に雅美の動きがピタリと止まった事を、真島の右目は見逃さない。
「…わかりました、すぐ向かいます」
部屋に響く、雅美の声と電話の向こうから微かに聞こえる低い声。
真島の胸中に黒い靄がかかる。
雅美が自分の知らない男と話している、それだけで嫉妬に狂いそうだ。
「私、そろそろ帰ります。知り合いが近くまで来てるみたいで」
雅美は浮かない表情をしたまま着信を切った携帯をしまい、自分のバックを手に取った。