第46章 公私混同etc
「親父はおまえを気に入ってる。体育祭以降、やたら家に連れて来いとうるせぇ」
『轟家にお呼ばれかぁ、私は常識がないからマナーとかすごく気を使いそうだ』
「…別に普通だろ」
二人で向かい合って、蕎麦を食べる。
緑谷たちは大所帯だった為、轟と向は二人で固まって座っていた口田と常闇の隣に座ることにした。
男女二人で相席、そういうことだろうと察してなのか、常闇達は一切轟達に関心を向けない。
話しやすい、と轟がその二人に好感触を抱いていると、向が急に眩しい笑顔で見つめてきた。
「お」
突然の不意打ちに轟が変な声を出し、ビクッと肩を震わせた。
『美味しい』
「…そうか」
これは、確かに毎日でも食べたい。
向は嬉しそうにそう言って、蕎麦を小さな口で食べ進める。
轟は彼女の幸福そうな様子を見て、微かに笑みを浮かべた。
((居辛い……))
もうとっくに過ぎ去った春の日差しを彷彿とさせる二人の和やかな雰囲気に、常闇と口田が気まずさを覚え、更に背景と同化しようと試みる。
「来るか?」
『エンデヴァーヒーロー事務所?んー…そうだね、せっかくなら』
「いや、そうじゃなくて」
『…ん?』
「俺の家に」
視線を合わせず、食事を進めながら問いかける轟に、常闇と口田が目をひん剥いた。
((自然体、ナチュラルすぎる…!))
無邪気…と常闇が呟き、一瞬そっちに気を取られた向だったが、すぐに首を横に振った。
『ううん、緊張してしまうから遠慮しておく』
「…そうか」
『焦凍は指名、どこ受けるの?』
「……。考える」
『そっか』
「けど、きっと親父の事務所だ。一番役に立つ」
『…役に立つの?』
「腐ってもNo.2、プロヒーローになるには、事件解決のノウハウも学ぶべきだろ。あいつは事件解決件数においてはオールマイトにも引けをとらねぇ」
そんな前向きの考えを口にする轟を見て、向は食事の手を止めた。
少しだけ、また饒舌に話していた轟はその向に気づき、視線を合わせた。
「…間違ってると思うか?」
『いや、すごく良いと思う』
私もエンデヴァーさんのとこにしよう。
そう結論づけた向に、轟が何の気なしに言葉を返す。
「おまえが行くなら、尚更そうする」