第5章 平行線
私はベッドに転がって昔の写真を眺めた。私と京治が手を繋いでいる写真。
……………
「京治は男の子なんだから、春華ちゃんのことを守ってあげるのよ」
何時か、言っていた京治のお母さんの言葉。
「まもる?」
京治が声を上げる。
「そう。春華ちゃんは超絶美少女だから守ってくれるナイトがいないとね!」
「ナイトだってさ!よくわかんないけど」
「けいじがわたしのことまもってくれるの?」
『守ってくれる』。本当に小さい頃の約束を覚えているくらいには、その事は私にとって嬉しい事だったらしい。
「ほら」
そう言って手を差し出す京治。
私はその手を握って一緒に色んなところへ行ったことをよく覚えていた。
近所の人からはよく、「仲がいい」とか、「何処へ行くのも一緒」、「本当の兄弟みたい」とか言われていた。
今思うと、ナイトじゃなくて王子様なら良かったのに。
ずっと側で守ってくれた。
でももう、それだけじゃ嫌なの。
どうしたら私を選んでくれるの?
………
次の日、京治は大人数から告白をされていた。
「すごい人数から告白されてるみたいだよ、赤葦くん」
「そうだろうね」
わかってはいたけれど、やっぱりこの前気まずい空気になっちゃったし、チョコを渡すのは無理かな。そう思って、バッグの中に入っているチョコを少し奥にしまい込んだ。
「しかも、3年生はホワイトデーには卒業してるからって赤葦くんが何故か持ってたポッキーを取ってってるらしい。3年生がそうしてるから1、2年生も一緒に」
『ポッキー』。それを持っていると聞いて、少し期待してしまった私は馬鹿だと思う。
京治を見たら大勢の女子に群がられていて、あれは何も残らないなと思った。そう思ったのは私だけじゃなかったらしい。
「うわーすごいたかられてる」
「ありゃ何も残らんわ」
「赤葦くんすごいねー」
そんな周りを横目で見て、ため息を吐いたと同時に男子生徒に話しかけられた。
「あのっ、池田さんっ!」
そう言ってチョコを差し出された。
…本当に流行ってるんだ。逆チョコ。
でも、やっぱり私は京冶じゃないと嫌だな、なんて思ってしまう私は相当我儘で最低だと思う。
でも、この気持ちに嘘は吐けないの。