第11章 私とパンダと空のむこう
手紙はそこで終わっていた。
ポツリ、ポツリと水滴が垂れて手紙に落ちる。
便箋に描かれた陽気なパンダのイラストがじわりと滲んだ。
「突然手紙なんか…寄越したと思ったら、何を…勝手なことばっかり…」
喉の奥から声が出て震えた。
封筒の中を確かめると、日本と中国を結ぶ航空券が確かにあった。
「本当に、思いつきで…すぐ行動するんだから…。まったく…」
一言ごとに涙が溢れて、それと一緒に思い出まで流れ出してきた。
ゴミ袋みたいに転がってて連れて帰るの重かったし。
飼ってあげると言ったら裸で抱きついてくるし。
人の都合も聞かないでセックスしたがるし。
爪切りを嫌がってカーペット傷つけるし。
エプロンイラストごときに嫉妬するし。
言うこと聞かないで外に顔出すし。
パンダ姿でもセックスするし。
後先考えず家を飛び出すし。
電車の中でやたら騒ぐし。
なんだなあ、思い返してみたら、いつも私は振り回されていたじゃない。
そういうヤツなんだよ伊豆くんって。
そういうヤツなんだよ。
「いつも、そう…なん、だから…」
仕方ないね。まったくね。
仕方ない野郎の書いた便箋を、私はギュウと胸にかき抱いた。下手くそな字さえもが愛おしくて。
そうしてしばらくそのまま、思い出の流れるままに泣いていた。
温かい涙だったと思う。