• テキストサイズ

ただのパンダのお引っ越し

第11章 私とパンダと空のむこう



手紙はそこで終わっていた。

ポツリ、ポツリと水滴が垂れて手紙に落ちる。
便箋に描かれた陽気なパンダのイラストがじわりと滲んだ。

「突然手紙なんか…寄越したと思ったら、何を…勝手なことばっかり…」

喉の奥から声が出て震えた。
封筒の中を確かめると、日本と中国を結ぶ航空券が確かにあった。

「本当に、思いつきで…すぐ行動するんだから…。まったく…」

一言ごとに涙が溢れて、それと一緒に思い出まで流れ出してきた。

ゴミ袋みたいに転がってて連れて帰るの重かったし。
飼ってあげると言ったら裸で抱きついてくるし。
人の都合も聞かないでセックスしたがるし。
爪切りを嫌がってカーペット傷つけるし。
エプロンイラストごときに嫉妬するし。
言うこと聞かないで外に顔出すし。
パンダ姿でもセックスするし。
後先考えず家を飛び出すし。
電車の中でやたら騒ぐし。

なんだなあ、思い返してみたら、いつも私は振り回されていたじゃない。
そういうヤツなんだよ伊豆くんって。
そういうヤツなんだよ。

「いつも、そう…なん、だから…」

仕方ないね。まったくね。


仕方ない野郎の書いた便箋を、私はギュウと胸にかき抱いた。下手くそな字さえもが愛おしくて。

そうしてしばらくそのまま、思い出の流れるままに泣いていた。

温かい涙だったと思う。
/ 92ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp