第23章 Moving on…
「待て?話はまだ終わっていない」
支配人室を出ようとした俺達を、それまでにないキツイ口調の近藤が引き止めた。
「ほ、ほら、翔ちゃん、座ろ?」
近藤の、若干怒気を孕んだ口調にビビったのか、雅紀が俺の腕を引く。
「だけど…っ…」
「分かるよ? 翔ちゃんの気持ちは、俺にだって痛い程分かる。でもさ、ここは一つ冷静にならないと…。ね? それにさ、もし俺達だけで智に会いに行ったとしてさ、智また逃げ出したいちゃうかもしれないよ? そうなったら俺…」
顔を背け、目尻に溜まった涙を拭う素振りを見せる雅紀は。
泣き脅しに乗っかるつもりはないが、普段馬鹿みたいに陽気な雅紀の涙には、流石の俺も弱くて…
「分かった…。とりあえず最後まで話を聞こうじゃねぇか」
そうだ、智の居所ははっきりしているんだ。
焦る必要はない。
俺は自分にそう言い聞かせ、再びソファーに腰を下ろした。
「おやおや、これは珍しい。櫻井さんにも弱い物があるようですね?」
それまで沈黙していた貴族探偵が、揶揄うように言ってから、長い足を組み換え、膝の上に乗せた両手の指を絡めた。
「櫻井君、君は薬物依存について、どれくらい知っている?」
「まあ、こんな仕事してますからね…、一通りは見て来ましたけど…」
そもそもストリッパーなんて職に就こうとする奴らは、大抵何かしらの事情を抱えてることが殆どで、薬物依存もそのうちの一つと言ってもいい。
「そうか、なら話は早い。…が、智の場合は、依存なんて簡単な言葉では片付けられない段階にきている」
「えっ…? それは…どういう…」
俺はその先の言葉を失った。
でも近藤は、言葉の通りだと言わんばかりに首を横に振った。
瞬間、俺の脳裏を“絶望”の二文字が過ぎった。
でも…、それでも俺は…
「それでも構わない。智に会わせて下さい」
俺は近藤に向かって頭を深々と下げた。
すると近藤は、俺の堅い決意を読み取ったのか、
「じゃあ、行こうか」
そう言って腰を上げた。
「だが、これだけは言っておく。何を見ても、何があっても、智から逃げないで欲しい。もしそうでないのなら…もう智のことは諦めてくれ」
試されてる…
俺の智への思いが本物かどうか、試しているんだと思った。