第23章 Moving on…
「奇遇ですね。実は、こちらから連絡を差し上げようとおもっていた所なんですよ」
貴族探偵は電話に出るなりそう言った。
そして、俺達に会わせたい人がいる、とも…
それは誰かと尋ねたところで、貴族探偵が簡単に答えてくれないことを知っていた俺は、もどかしい思いを胸に、散らかし放題になった支配人室をウロウロと歩き回り、貴族探偵の到着を待った。
当然、
「翔ちゃんさ、ちょっと落ち着きなよ…」
雅紀は俺に苦言を呈したが、すんなり受け入れることなんて出来る筈もなく…
「うっせぇ、この状況で落ち着いてられっかよ…」
俺は苛立ち紛れに、エグゼクティブチェアを蹴り飛ばした。
「智がもしこの件に絡んでいたとしたら…」
「そんなことないって。智は大丈夫たからさ…、ね?」
大丈夫…、智は関わっていない…
そう信じたいのに、どうしてだ…、一体何が俺をこうも不安に駆り立てる…
俺はデスクの上に無造作に置かれていたタバコの箱を手に取った。
でもこんな時に限って箱の中は空で…
手の中でタバコの空箱を握り潰すと、それをゴミ箱に叩き付けるように投げ入れた。
その時、それまで大して面白くもないバラエティ番組を映していたテレビが、ニュース番組に切り替わり、つい数分前に紙面で見た通りの話題が報じられた。
両手首に手錠をかけられ、大勢の捜査員に囲まれるようにしてパトカーに乗り込む松本潤…
その姿は、智が持っていた写真に写る姿とは、別人とまではいかないまでも、同一人物かと疑いたくなるほどの変化を遂げていて…
続けて映し出された上島の顔を見た瞬間、俺の怒りは頂点に達した。
「クソが…、コイツら全員ぶっ殺す…」
わなわなと怒りに震える拳をデスクに叩きつけた。
当然、驚いたのは雅紀だ。
「ちょっとちょっと…、まだ智が絡んでると決まったわけじゃないんだからさ…、物騒なこと言わないでよ…。それに智にはニノもついてることだし、ね?」
そうだ…
智にはニノがついてる。
ニノが傍にいれば…
俺は一度は煮えたぎった頭を冷やそうと、ブラックのコーヒーを一息に飲み干した。
そして空になったカップをデスクに置いた、丁度その時…
支配人室のドアがノックされ、ブーツの踵がコツッと音を立てた。