第1章 三角形 case1
また、長い溜め息が聞こえる。
ガタッと椅子の動く音がして、反応したように黒尾さんの方を向いた。
テーブルに手を付いて身を乗り出している。
匂いを嗅がれた時と同じくらい顔が近い。
長い指先が私の前髪を掻き上げて、顔がもっと近くに寄ってきた。
この行動が何を意味しているかは理解出来ないけど、嫌ではない。
じっと目の前の顔を見つめて、動けなくなってしまった。
「…何してるんスか。」
顔がくっついてしまう寸前で、硬質な物を荒くテーブルに置く音が聞こえる。
「ここ、公共の場ですよ。」
戻ってきた京ちゃんがグラスをテーブルに置いた体勢のまま、黒尾さんを睨んでいた。
慌てて黒尾さんから離れるように体を引く。
身体中の血液が普段より早く流れて、心臓が口から飛び出てしまいそうだ。
熱を少しでも冷まそうと、持ってきて貰ったばかりのグラスに口を付けて、中身を一気に飲み干した。