第4章 インターハイ
「あ!そこ血が!」
嫌がる荒北を抑えて、Tシャツの袖をまくった。
そこには今日できたのであろう傷があり、血が滲んでいた。
「こんなン、いつものことだ」
荒北はサッと袖を戻して傷を隠した。
「アンタ、どんな走り方して、、、」
「ギリギリだよ。速く走るためにいつもギリギリを走ってる。そういうのが一番燃えンだろ?」
荒北の目が光る。
ギリギリの世界。
目の前のゴールに手を伸ばして触れる瞬間。沙織には荒北が燃えると言った気持ちが分かった。
かつて沙織も同じものを求めていた。あの感覚を思い出すと今でも胸が熱くなる。
けれど、、、
「怪我してレースに出られなかったら意味ないじゃん」
「ハァ?怪我だァ?」
荒北は眉をひそめた。
「んなこと気にしてる奴には一生ゴールは取れねぇ!絶対にだ!」
荒北が沙織を見る。
「俺ァ取るぜ!怪我しても何してもだ。そして証明してやンだ。現実はひっくり返ンだって!その為に走ってきたんだ!」
沙織はそう言って不敵な笑みを浮かべる荒北から目を逸らすことができなかった。
怪我をしても欲しかった。
何をしてでも欲しかった。
あの時の自分もそうだった筈なのに。
「ふふ」
「アン?何がおかしい?」
荒北が怪訝な顔で沙織を睨む。
ガタッ
突然、沙織は立ち上がり、ジュースを一気に飲み干した。
「よーしっ!荒北!!そこまで言うなら絶対一位を取れ!そして証明しろ!もし優勝したらベプシを奢ってやるよ!!」
その言葉に荒北は一瞬固まっていたが、すぐに我に返った。
「ハァ?何だそれ。っつーか、優勝してもベプシって安すぎンだろ!もっとイイもん奢れ!!」
「ハァ?アンタ、ベプシ好きじゃん!それにこの私が奢ってやるって言ってんだよ!!」
「うっせー!何だその上から目線!」
噛み付くだけ噛み付いて荒北は沙織を見た。
コイツ、インターハイなんて興味無いんじゃなかったのかヨ。
っつーか、何でそんなに嬉しそうなンだよ。
まだ走ってもないうちから笑ってンじゃねーヨ、バカチャンがァ。
荒北は思わず沙織から目を逸らした。
「、、、テメェなんかに言われなくてもなァ、取ってきてやンよ!この俺がァ!」
晴れた空に煌めく月が照らす休憩室。
沙織の心も少し晴れて、
インターハイ前日の夜が過ぎていった。