第8章 秋は夕暮れ②
そんな沙織の頭の上で、荒北の手がゆっくりと跳ねる。
もう、ホントに、、、何でこんなに優しいかな?
らしくないじゃん、、、。
アンタがらしくないせいで私は、、、
「でも違ったみたいだ。巧にとって私はただの、、、っ」
ウジウジして情けないままじゃんか、、、。
「そんなことねェ」
荒北の静かなだけど強い声が沙織の言葉を遮った。
「、、、俺が、何とかしてやる」
「は、、、?」
沙織は思わず顔を上げた。
今、なんて、、、?
顔を上げた途端、隠そうと必死だった涙がこぼれ落ちたが気にもならなかった。
荒北の目は真剣で何か覚悟したように光っている。
沙織はその目を見つめて問いかけた。
今のは、どういう意味?
荒北も沙織のことを見ていた。
しかし鋭かった目が一瞬緩んだかと思うと、ポンと沙織の頭に手を置き、無言で立ち上がった。
そしてスタスタと玄関に向かって歩き出す。
「え!?ちょっと、、、コラ!待てって!」
沙織は急いで追いかけた。すると、それに気がついたように荒北はゆっくりと振り向いた。
「一体どこに、、、?」
今度は言葉に出して尋ねた。
荒北と目が合う。
鼓動が早くなった。
俺が何とかする??
それってまさか、巧の所に行くつもりじゃ、、、
殴り込むとか、そんなんじゃ、、、
悪い予感が次々と沸いてきた。
そんな沙織の考えを見越したように、ふいに荒北が微笑んだ。
そして
「、、、バァーカチャン」
それだけ言って出て行った。
何、、、?
荒北?何でアンタがそんな顔してんの?
そんな顔見たことない、、、。
ねぇ、そんな顔しないでよ。
荒北の微笑みが沙織にはやけに優しく、しかし泣いているようで、その場で沙織は動くことができなくなった。
いつの間にか外は夕方になっていたようで、荒北の背中はその赤い光に溶け込んで眩しい。
少しずつ扉が閉まり、光とともに荒北の姿が見えなくなるのがまるでスローモーションのようだった。