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【ヒロアカ】UAシンドローム【轟焦凍R18】

第35章 【空色】勘違いパンデミック




くんっと引かれたネクタイの反動で
ハイリは爆豪へと首を差し出した

同時に過ぎるのはあの日の記憶

これだけ噛んだ理由を尋ねているのだ
あの日の痛みがフラッシュバックする


(か、噛まれるッッ!)


近づいてくる唇に
抵抗しようと捩った体は背を反らせた
力を込めた足がツルと滑る

カクンと折れた膝
感覚を狂わせる浮遊感


(ぁ"……)


ゆっくり反転する視界を覆う爆豪の顔に

いつかもこんな光景を見た…と
倒れる頭は意外にも冷静だった。






――ゴンっ

――ガチッ



鈍い音は二つ
上がった小さな悲鳴も二つ



「痛っ…っ」
「………つっ」


見上げても天井はあまり目に入らず
あるのは爆豪の顔のみ
それも視界から食み出んばかりのドアップだ。

また一緒に倒れてくれたのか

また、庇ってくれたのか

自分の頭に添えられている爆豪の手に
理不尽に塗れていたハイリは心が中和されていく。

余裕を取り戻す耳に入ったのは
自分たちのものよりやや大きな悲鳴だ

瞳だけを動かせば
両手を口に当て目を見開いている八百万

その隣に両手を繋ぎ合い
こちらを凝視している葉隠と芦戸

反対隣りでは
耳郎が片手を額に当てて溜息をついている。


(なんだ、どした…?)


寧ろ男子は静かなものだ
声にならない叫びは字のとおり
音を成してはいないのだから。

何ごとかと身を捩る前にハイリを覆っていた圧は遠のいた
次に覆うのは影。

四つん這いになり自分に覆い被さっている爆豪に
意識せずとも息を呑む
次第にジワリ、舌に広がる鉄の味
何が起こったのか理解して
余裕を取り戻したはずの頭は機能を停止した


(ま、さか…)


少女の顔から血の気が失せていく

そろそろと細い指で自分の唇へと触れる

その仕草で
気づいたと理解したのだろう
少女の顔色に自嘲めいた笑みを浮かべた爆豪は
小さな唸りを上げた


「こういう事だ…わかったか
この…KY女…。」


射抜くような緋色の目
交差する距離15cm

それが30cmになり1mになり
遂にはハイリを覆っていた影は一片も残らず
遠のいていく

爆豪は
赤面しつつある顔を左腕で庇いながら
友人の声にも耳を傾けず
静かに教室を出ていった。


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