第35章 【空色】勘違いパンデミック
「勘違い…?」
ようやく怒られている原因が見え始めたハイリは
傾げた首を反対方向へと傾げ直した
腕を組み
真剣な顔をして考え込んでいる
心当たりを探しているのだろう
やや下方に留められた視線は
どこを見ているというものではなかった。
静まり返る教室内
A組の教室とは思えない
各々は待っているのだ
固唾を飲んで手を握りしめ
出来ればハイリに気付いて欲しい
そんな願いを込めて
だが願いは次の言葉に風塵と化した
「私、何を勘違いしてるの?」
当たり前と言えば当たり前
そもそも今気づくようならば
もっと早く気付いていただろう
こんな勘違いすら生まれなかったのかもしれない。
助言をしようと一歩踏み出した上鳴の肩を
瀬呂が「待て」と掴む
何故って?
爆豪が…その口を開いたからだ
「な…んっっで
俺があんな舐めプ野郎に惚れにゃならんのだ!」
廊下にまで響き渡りそうな声が
ビリビリと空気を震わせた
心の中で拍手を送るクラスメイト
よく言った!
頑張った!
長かった
期間にしてみると然程長くはないが長かった
ここまで言えば
流石のハイリも気付くだろう
視線の矢が集中する
矢じりに刺された少女と言えば
目を真ん丸にして口を半開きに
声は
脳天から突き出たような頓狂なものだった
「えっっ!?違うの!?」
悲しいかな
期待とは裏切られる為にあるのだ
怒ってはいけない
期待をした自分が悪いのだ
なんて、爆豪が思う筈がない
「ったりめぇだろーがッ常識で考えてみろやッ!」
「あったりまえじゃないよ!そこは自由でしょ!?」
「その自由を俺に当て嵌めんなってンだろーがッッ!」
「今初めて言われたしっ!」
今までのてんやわんやは何だったのか
これだけの時間を掛けてようやく切り出したかと思ったら
押す波寄せる波
怒涛の如く言葉を交わし合う二人
先程まで怯えていたハイリだが
爆豪がいつもの調子に戻った事に気付いたのだろう
ここぞとばかりに牙をむく
よもや愛する男の蔑称が
「半分野郎」から「舐めプ野郎」に代わっている事など
気にも留めてやいやしない
頭を庇っていた両手は下ろされた
両肘をピンと伸ばし
握った拳が下を向く
ダンッと踏んだ地団駄が
まるで駄々をこねる小学生のように見えた。