第3章 三ヶ月目のさよなら
そして私はカバンのヒモをギュッと握って、夜の闇に駆けだした。
……つもりだった。
瞬間、私の後ろで電気がつく。
扉がバタンと開いて怒声がするけど、私は駆けだした。
けど腕をつかまれる。殴ろうとしたんだろう。空気が動いた。
でも、私はもう覚悟を決めていた。
「っ!!」
一人のこぶしを交わし、手を組み、後ろに全力の肘鉄を突きだした。
腹に決まった! 相手がうめいた隙に腕を振り払い、そのままもう一人の顔面を全力で殴る。クリーンヒット!
「!?」
まさか反撃してくると思わなかったんだろう。
奴は鼻血を流して呆気に取られていた。
もう一人は、もう一度殴ろうとしてきた。私はこぶしをサッと避け、アゴに頭突き!!
相手は悲鳴をあげてのけぞった。
女の頭突きはかなり有効です。護身術のご参考に。
はあ。三ヶ月間、六つ子とじゃれあった経験が役に立つとは。
今なら分かるけど、こいつら、ケンカの基本も出来ちゃいない。
しかも酔っ払ってるんだから、負けるわけないだろう。
私は走り出した。
追いかけてこられるけど、もう怖くない。
酔っ払いの脚力は、六つ子の介抱を散々してきたからよーく分かる。
涙がポロッとこぼれる。今になって足が震えそうだった。
でも止まれない。
一松さん……。
都合良く助けに来てはくれない、ニートでコミュ障の頼りにならないヒーロー。
でも世界で誰よりも、私を支えてくれる存在だった。
…………
…………
…………
バーの扉をくぐると、バーテンダー姿が板についたイヤミさんがいた。
私を見て、ちょっと目を丸くしたけどすぐに、
「松奈ザンスか。久しぶりザンスね。ちょっと雰囲気が変わったザンスか?」
「くくく。少女は三ヶ月で大人になるものですよ」
「前言撤回ザンス。変わらないザンスね。どうしたザンスか?
十四松をフッて家に帰ったんじゃなかったザンスか?」
面倒くさそうに言いながら、高価格牛乳を用意して下さる。わーい。
「一松さんです。それがとんでもないことが判明したのですよ」
「興味ないザンス」
牛乳を出してくれながら言う。