【刀剣乱舞】不死身審神者が死ぬまでの話【最強男主】
第1章 神の初期刀・前編(加州清光、大和守安定編)
上目遣いに彼を見やる。月明かりのみを頼りに薄ぼんやりと像を結ぶ緋雨の姿は、もはや美しいという表現すら生ぬるい。顔、髪、首、肩、すべての部位が彼の非の打ち所のない容貌を構成するためお互いに絶妙な均衡を保っていて、本当に誰かの手によって作られたのではないかと思うほどだ。けれどそんな惚れ惚れする美貌も今は自分と彼との隔絶された差を示す哀しいものでしかなく、胸を雑巾のように絞られるような間隔を覚えながら清光は口を開いた。
「……あるじは」
「うん?」
緩く伏せられた色違いの瞳を、白銀の睫毛が微かに震えながら縁取る、いっそ幻想的にさえ見える様を見つめながら問う。
「主は俺のこと、愛してくれてる?」
「ああ、愛しているよ。とても」
当然だろうとばかりに淀みなくうなずく緋雨。しかし普段から呼吸するように言われ続けている言葉だけでは到底不安は埋まらない。
「じゃあ、俺のこと、自分のものだって思ってくれてる?」
爪を塗る緋雨の手が、止まった。視界の端で彼が顔を上げたのを感じ取る。たったそれだけのことなのに、先ほどの安定との件で精神的に追いつめられている清光はその何気ない仕草すら耐え難く何とか取り繕っていたはずの心を瓦解させてしまう。
「俺、時々すごい苦しくなるんだよ。主は優しくて、綺麗で、そんですごく、強いから。俺たちにとっての人間が、主にとっては俺たちで、どうやったって対等にはなれないし、何か、すごく遠くに感じちゃうんだ、主のこと。主は俺たちのこと愛してくれるけど、それが何でなのか俺、分かんない。みんなに優しいし。死ぬ寸前の敵にまで、優しくしちゃうし。もしかしたら誰でも、良いんじゃないかって」
もう駄目だ、これ以上は堪えられない。古びた壁の塗料がぼろぼろと剥がれ落ちるように、自分の内側を形作っていた何かが崩れていく。涙腺にも制御が利かなくなったようで、視界が見る間に濁った膜の向こうに歪み眼の縁をこぼれ落ちていった。
「お、おれなんか、ひっく、い、いらないんじゃ、ないかって、」