第90章 頬を抓れば、すぐに分かる 肆
「散々、惚気を聞かされてたけど、こりゃ分かるなぁ」
「でしょ?正直、自慢しようと思って呼んだんだ」
どこか得意げに潤が言うものだから。
だから、悪くない夢だなぁ、と他人事のように思う。
付き合ってもないのに。
可愛いって言うから化粧までしてるヤツなのに。
何て素敵なことでしょう、そっか、ユメだもんな。
ほんの少し開き直って、勝手にコートの袖を引いてみる。
どうしてか潤の友達が急に盛り上がりだしたから、丁度好いと思って小声で言う。
「………ねぇ、潤?コレ、いいゆめだね」
「夢じゃないって。今まで振り回して、ゴメン。都合好く聞こえるかもだけど」
オレと、付き合ってくれる?
耳元での囁きに答える間も無く、唇が奪われる。
驚きで目を閉じるのを忘れて、だけど。
すぐ近くにある長い睫毛も、いつもより軽いキスの感触も。
思わぬ告白と共に与えられた、その全部が本物で。
それに、真剣に見える眼差しを、偽物とは思えなかった。
ということは。それなら。
どうやら、これはホントのことなのかもしれない。
けど、まだ信じきれないから、早く二人きりで話をしたい。
そう思って、潤のウチ行きたい、と呟けば。
若干、強く引っ張られ、人の輪から離れていく。
不安になって表情を見遣れば、ウインクが返ってきた。
いいのか、な?
「ごめんだけど、オレら先に抜けるね。じゃあね、また」
「おう!じゃ、また暇なときに連絡する」
「よろしく。みんなもまたね」
颯爽と歩き出す様がカッコよくて、やっぱりキュンとする。
すげぇイイ男だろ、と内心思いながら、慣れないヒールで半ば引きずられていた。
フワフワするから、もしかすると俺は寝てんじゃねぇか。
よし。好い気分になっちゃったし、恋人繋ぎにしちゃおう。
ゆめだし。思い出いっぱいで、よかった。
きゅ、と指を交差させると、潤が目を丸くして俺を見る。
口をもごもごさせて数秒、歯切れの悪い言葉が降ってきた。
「ぇ、どしたの。急に、えと。あの、えっと、智さん?」
「んー……だめ、か?」
「いやいやいや!寧ろ最高っていうか、ほら行きましょ」
全て現実だと理解するのは、潤の家に着いてからだった。