第87章 頬を抓れば、すぐに分かる 弌
side.M
先輩が、オレを好きだと言う。
穏やかでフワフワしてて、よく分かんないとこがツボ。
そんなひとが、彼が、また不思議なことを言ったのだ。
不快じゃないし、嫌悪感も無い。
けど、そういう意味での好意は抱いてないし。
それに、今の距離はかなり心地好い。
呑むのも楽しいし、世話焼くのも嫌いじゃないんだよなぁ。
「ぁー……困った、てか弱ったぁ」
気の抜けた独り言がさっきから止まらない。
同性への告白には勇気がいるだろう、というのは想像出来る。
何だかんだで若干、気にしぃなとこもあるって知ってる。
それでも返答を待ってくれてて、無かったことにしても良いとも言われた。
オレは、少なくとも、智さんのその気持ちを”無かったもの”にはしたくない。
だから、付合うなり付合わないなり、ちゃんと答えないと。
応えられないとしても、出来る限りは誠意を以て向き合いたいと思う。
でなきゃ、何だか。うん、何ていうんだろ。ほら、ねぇ?
泣きそうに、見えたんだ。泣きだしてしまうかと怖かった。
少し赤みの差した目元と、彷徨う目線と、失敗したような笑みと。
好きだと告げられたときの、あの表情がこびりついて離れない。
だって、オレはあんなの見たことない。
間接的にだって、泣かせたことは無いし。
そう思うなら、きちんとしなきゃ。
本音を言ってしまえば、曖昧にしちゃいたい。
狡いだろうけど、それこそ智さんを傷付けるだろうけど。
でも、だけど、そんなこと出来ない。
そんな器用じゃないし、何より泣かせたくない。
あのひとを悲しませたくもないんだ。
傷付けるのは、避けられないのかもしれない。
そう思うと、また怖くなった。