第28章 佐助のターン
『山道だから走るのは危ないけど、ゆっくりならまだ一人で歩けるから大丈夫だよ』
『でもこれ以上熱が上がったら大変だ。俺たちがいた500年後みたいにすぐ効く薬もない。ただの風邪とも限らない。だから今は俺の言うことを聞いて欲しい、お願いだ』
佐助の言う事はもっともだ。
反論の余地は微塵もない。
今回は言葉に甘えて佐助の背中を借りる事にした。
『佐助君、重かったら遠慮なく下ろしていいからね』
『大丈夫。毎日謙信様に鍛えられているから』
(そんな事をしたら謙信様と景家さんの2人に斬られる。怪我じゃすまないだろうな)
『それならお願いします』
ゆっくり背負われると佐助の肩の上から両手を前に回して落ちないようにする。
(っ……、これは落ちないための理想の形とはいえ想像以上の密着だ)
『じゃ、じゃあ出発するから落ちない様にしっかり掴まっていてね』
『うん』
背中から伝わる温もりと、歩いた時の振動が妙に心地よい。
佐助が歩き始めてしばらくすると直美は静かに目を閉じてそのまま寝てしまったのだった。