• テキストサイズ

【ヒロアカ】血まみれヒーローと黒の少年【原作沿い男主】

第6章 謎の少年




 彼は――翔は、本当に驚いたとばかりに素っ頓狂な声を上げた。出久はちらりと見えた彼の手足から、あの凶悪な黒い爪が生えているのを見た。地面や向かい合ったビルの壁に突き刺さったそれらに、縫い止められるようにして気絶している男の姿も。


 そいつは色黒で、サングラスをかけ、ド派手な模様の入った紫色のシャツを着ている。風体は夏の海水浴場でよく見かけるナンパ男と言った感じだが、サイズだ。身体がとにかくでかい。出久の方に足を向けて寝転がっているのでよくは見えないが、翔の二倍は優にありそうだ。そいつの胸の上に立っている翔の位置がそれなりに高いことから、厚みも相当にある。普通の人間ではまずあり得ない体躯だ。個性――筋肉などの肉体部分を増強するタイプの個性だろうか。あからさまに柄の良くないその男は、四肢を投げ出し、完全に意識を失っているようだ。


 誰が彼をそのような状況に至らしめたのか。答えは火を見るよりも明らかだった。


「何でこんなところに――」
「やっぱり知り合いだったんだ」


 翔の質問が終わる前に、少女が言った。話を遮るような言い方だったのに、彼女の語り口には長年連れ添った伴侶に話しかけるような、実に自然な流れのようなものがあった。


「尾けて来たんじゃない? 翔の後を。いい趣味してるよね」


 腕組みをしたまま薄く笑む少女。その鏡のような意図の読めない視線を受け止めて、出久は顔が下向くのを止められなかった。いい趣味。少女の声音には責めるような色は全くなかったけれど、言葉にされると地味に良心に刺さるものがある。


「おいおい翔、こいつが例の「継承者」かよ? おもっきし尾けて来てんじゃねーか。ほんとにこいつにバラして良かったのかよ」


 少年は相も変わらず全裸のまま、無遠慮に出久を指さして言った。意図の透けない少女とは正反対に、少年の言葉や視線からは出久への疑心や敵意がひしひしと伝わってくる。


 翔は振り返った姿勢のまま何も言わない。ばつが悪そうに下を向き、唇を噛みしめている。彼が何を思っているかはわからないが、自分もきっと同じような顔をしているだろうと出久は思った。

/ 106ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp