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【ヒロアカ】血まみれヒーローと黒の少年【原作沿い男主】

第5章 懐疑




 ――転校生くらいの歳頃の子どもの戦い方として、最大の特徴と言えるのは「躊躇」と「迷い」だ。

 この頃のまっとうな子どもは、例えどれだけ身体能力や個性が長けていても、自分を本気で害そうとしてくる人間と実際に対峙した経験はまずない。スポーツや訓練のようにあらかじめルールに守られた土俵で本気で闘い合うことはできても、ルールも何もない、負ければ己の命をも差し出さなければならないような状況になど、このご時世に早々追い込まれることはないからだ。そこに突然対人戦闘の演習など取り入れれば、大体は自らの個性で他人を傷つけることに二の足を踏む。どこまで本気を出していいのか。自分の個性を相手にどう使えばいいのか。どの程度の攻撃でどの程度の損傷が加えられるのか。勿論度が過ぎれば相手に大怪我を負わせてしまうので、ほとんどの場合迷い、躊躇い、やがて「手加減」することを覚える。


 それは常に最小限の被害で事態を押しとどめなければならないヒーローとしてはけして悪くはない傾向だが、度を超すと敵一人まともに捕まえられないへっぴり腰のヒーローが生まれてしまうことにもなるので、その辺りの調整をするのがヒーロー育成に携わる教師としては重要な仕事になってくる。


 だが、転校生の動きにはその、全ての子どもが持っているべき「迷い」や「躊躇」が欠片もなかった。攻撃による損傷の程度、力加減、相手の動きや反撃の仕方を熟知していなければ、あのような迷いのない電光石火の動きはできない。逡巡する間がない分ほかの生徒より一段速く動けるのは、実は異常なことなのだ。


 それは本来、これより先の職業体験なりインターンなりで少しずつ身につけていくべきもの。幼少からヒーローになるためのエリートコースをひた走っていたならまだしも、両親を亡くし孤児院に身を寄せている天涯孤独の転校生が、あのような「経験者」の闘いぶりを披露できる所以はないのだ。


 それができるとするならば。彼が身を寄せる孤児院『アザミの家』の院長、白銀凪人その人の仕業に他ならない。いたいけな子どもをそのように訓練する理由など考えたくもないが、何か後ろ暗い理由であることには相違ない。ここでそれを暴かなければ、と相澤は膝に置いた拳に力を込める。


「もう一度質問します。一ノ瀬に戦い方を教えたのはあなたですね」


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