第8章 summer memory③
「この間・・・、家の前に綺麗な女の人がいたんです。その人が及川さんに手紙を渡してほしいと言ってきて、それを読んだ及川さんは・・・どこかへ飛び出して行きました。一度家に帰ってきたんですけど・・・その・・・今までの明るい及川さんじゃなくて、凄く哀しい顔をして・・・帰ってきたんです。それで・・・俺に踏み込まない方がいいって・・・」
ことの経緯を話している間、岩泉さんは何も言わずに私の話を聞いてくれた。
「だけど私、それでも触れたいって思うんです。彼の心に。あんなに辛そうな顔してるのに・・・平気なわけないって、思うんです」
そして、私は岩泉さんに頭を下げた。
「お願いです、岩泉さん。及川さんのこと・・・何か少しでも知っていたら・・・教えてもらえませんか?」
彼を救いたい・・・その一心で、私は岩泉さんの言葉を待った。
「顔、上げろよ、りお」
低い芯の通った声。私はゆっくりと、顔を上げた。
同じく揺るがない瞳で私を映す岩泉さんは、言った。
「俺はあいつと、本当にちいせぇ頃から一緒な腐れ縁だ。あいつの考えてることも、抱えてることも、全部知ってる。言うことだって簡単だ」
「・・・じゃあ」
「けどな」
岩泉さんの瞳が、私以外の誰かを思っている。
きっと。かけがえのない幼馴染のことだ・・・
「きつい言い方になっちまうが、部外者が簡単に首を突っ込んでいい話じゃない。・・・手前自身が傷つくことかもしれない。及川は、あんたをそれに巻き込まないようにする為に、遠ざけようとしてたってことも・・・わかってやれ、な?」
「はい・・・」
この人・・・本当に及川さんのことを、わかってる。私なんて比じゃないくらいに。
私はこくんと頷く。
「保証はできねぇ。お前自身が傷つくことになるかもしんねぇが、それでもあいつに近づく覚悟が、あるか?」
試すように、岩泉さんの瞳は私を射抜く。けれど、そこに、怖じける必要はない。その為にここにいるんじゃない。
「はい」