第9章 summer memory④
及川さんは寂しがり屋だ。
あの親睦会で酔っ払った及川さんと一緒の布団で眠った時の、
彼の、心の拠り所を探すような目は、誰かに側にいてほしくて堪らなかったからだ。
心にぽっかりと空いた穴は、誰と一緒に眠ろうが、キスをしようがそれ以上をしようがきっと満たされない。
わかっていては及川さんは、もがいていたんだ。
きっと初めて会ったあの夜も。こないだも・・・。
へらへらとしていたのは仮面で、誰よりも傷ついた心を隠すため・・・
そんな事も知らずに、私、平気で彼に酷いことばかり言ってた・・・
俺のこと、好きにならないでと言ったのも・・・
自分と関わって傷ついて欲しくないから・・・
人から愛される存在なのに、愛することを恐れてる。
明るい及川さんなんていない。明るく、振る舞っていただけだ。
誰にも迷惑かけないように、常に、笑って・・・
「ごめん・・・なさい」
「なんであんたが謝んだよ」
「私・・・、及川さんに沢山笑顔にしてもらってたのに、今、何もできないから・・・自分が不甲斐ないです」
及川さん・・・
いつだって私の笑う先にはあなたがいた。
だけど、私、今あなたが一番苦しい時に、
土砂降りの中、立ち尽くしているのに・・・
傘も何も無いよ・・・
「何もできてないなんて、そんなわけあるかよ」
「え・・・?」
岩泉さんの言葉が、手の温もりを通して伝わる。
「りお・・・あんたといる及川は、俺のよく知る素の及川だと思う。誰にだって見せる顔じゃない。言葉にはしないだろうけど居心地いいんだろうよ」
そうなのかな・・・?
確かに、よくお互いの時間を持ち寄って出かけたし、
たくさんたくさん、笑い合った。喧嘩もした。
「俺はそんな風に見えるぞ」
まだ知り合って数ヶ月だけれど、彼の心を少しでも安らげる事が出来ていたのかな・・・
「答えを出せていない及川には、まだ少し時間がかかるかもしんねぇけど・・・俺がずっと側にいられねぇ分を、任してもいいか?」
それは、及川さんを一番よく知る岩泉さんからの頼み事だった。
私に・・・彼のために出来ることがあるだろうか・・・
やってみないと、わからない、よね・・・
「・・・・・・はいっ」
及川さん、あなたの孤独が少しでも和らぐなら、
私はあなたに何を、してあげられるかな・・・