第145章 ひとつの布団
座椅子に胡座をかいた彼は話しの何を聞いていたのか
美脚を晒し、最初より随分着崩れた浴衣は座っているだけなのにバッチリ腹筋迄覗かせている
………どうやら彼に改善する気は無いらしい……完全に気を抜いていると考えれば喜ばしいのだが
自身がどれだけ魅力的で私をドキドキさせるのかなんて彼は微塵も知らないのだ
「イルミさん………」
「何」
私はそんな彼に抱き付いてみた
引っ付いてしまえば見えないし意識しない……というのは建前で只彼に近付いてドキドキしてもらいたかった
私ばかりドキドキするなんて癪に感じたのだ
彼のお腹に頬を擦り寄せる形でじっと様子を伺っていると
「沙夜子、酔ってるの?」
「…………。」
彼は何時もと変わらぬ声色で言った
勿論全く酔って等いない
彼に少しでも……なんて私の考えは早速虚しく感じて私の気分は拗ねモードに入る
「はぁ………ほら、眠るよ」
意地でも離すものかと思っている私とは裏腹に私が酔っていると思っているのか頭上から降る声は優しい物で
やんわり私を離す手に抗う事は出来なかった
「イルミさん」
「何」
会話を交わしながらも軽々私を抱き上げた彼に丁寧に布団に下ろされ、強制的に就寝が近づく
「まだ寝たく無いです……」
部屋の灯りを豆電球にした彼はゆるゆる頭を掻くと隣の布団に腰を下した