第143章 旅立つ
勿論メイクやお洒落は自身が楽しむ為にしている……しかし、彼からの評価は今の私の気持ちを大きく左右させる影響力がある
私は妙な緊張からゴクリと唾を飲み込んだ
「雰囲気が変わるね」
言いながら私の髪を一束手に取ると毛先を遊ばせる様に長い指へ絡めた彼にドキリと心臓が跳ねる
非現実的な旅先で少しでも彼がドキドキしてくれたならと普段とは違うストレートヘアーにセットしたのは事実。
そして彼がその変化を口に出してくれるのも想定の範囲内だった
………しかし………彼が普段とは違う私をどう思ったのかは想定出来ないでいた
一緒に生活していてもやはり彼はミステリアスなのだ
彼の思考が想定出来る筈が無い
以前から恋する乙女なら当然の、可愛いと思われたい!という想いがあったのは確かだが……ここまで緊張していただろうか……
「……変でしょうか……?」
思わず小さな声が漏れてしまった
控え目なラジオの音と車のエンジン音が混ざる車内で真っ直ぐ進行方向を眺める彼の横顔を見詰める
時間にすればほんの数秒
横目に私を捉えた彼は
「ストレートも似合ってるよ。」
と単調に言った
「……っありがとうございます!」
静かな車内に元気過ぎるボリュームで声を上げた私は鼻歌でも歌いたいくらい浮かれた気分に成った
似合ってる、その一言にもニヤニヤと頬が緩み心拍数は格段に上がった
しかし注目すべきワードは"も"である
彼は「ストレート"も"似合ってるよ。」と言ったのだ