第1章 炎色(ほのおいろ)
「佐助君……」
「あ? 佐助?」
幸村は佐助君の姿を捉えようと私の視線を目で追い振り返った。
会話が中断されるのを待っていたかのように、佐助君は体をこちらに向けると静かに口を開く。
「幸村、落ち着いて。
ろきさん、今日は様子を見るとして明日信玄様を見舞うついでに道三様に見て貰うのはどう?」
「うん。私その方がいい」
「は? 佐助、何で明日なんだよ!
今すぐ診て貰った方がいいだろッ」
「顔色も随分戻ったようだし、ろきさんの言うように幸村も体を休めるべきだ。
それに嫌がってるのに無理やりっていうのは感心しない」
佐助君の言葉に息を凝らし疑うような目で私の顔をじっと見つめる。
「お前、本当に大丈夫か?」
「う、うん」
「無理してねーか?」
「無理してないし気分もよくなったってば」
「嘘ついたら承知しねーぞ」
「嘘なんかついてない。ほんとに大丈夫だから!」
畳み掛けるようにきいてくる幸村に私は休んで欲しい一心で必死に答えていると、気持ちを察してくれたのか、佐助君が幸村にピシャリと言った。
「幸村、今日は諦めるんだ」
「うるせえ」
「170勝0敗で今日もろきさんの勝ちだ」
「佐助、うるせえっつってんだろ!」
「よし、一件落着。
じゃ僕は部屋に戻る。幸村、何かあったらすぐに声かけて。
ろきさん明日の朝また来るから。お大事に」
「……なにが一件落着だよ」
「ありがと佐助君」
納得いかないと言わんばかりに不貞腐れた態度の幸村を気にする事なく、佐助君は瞬く間に去っていった。
なんとかこの場は収まったものの、いまだ機嫌が悪く黙り込む幸村を横目に何て声を掛けていいのかわからない。
布団に横たわったまま幸村に背を向けると、気まずい時間だけが過ぎていった。