
第10章 赤いチューリップ

………正直に言おう。
ボクは今、機嫌が悪い。
なぜかって?それははっきりしている。
「く、九条さん……こんばんは」
理由は彼女がボクの目の前にいるからだ。
やっぱり楽にはめられた。
「………こんばんは。東雲さん」
「ほ、本日は、誘っていただきましてありがとうございます」
「誘った?それ、どういうこと」
「えと、八乙女さんからラビチャで『天がお前と会いたがっているからここに来てくれ』って、連絡が来まして……」
「はぁ……」
ボクは思わずため息をついた。
楽も龍も演技が上手くなったことだ。
「ご、ご迷惑でしたか………?」
彼女の眉がどんどん下がっていく。
「いや、違う。そうじゃないから」
「そうですか……よかったぁ」
ニコリ、という微笑みを見ただけで身体がほんのり熱くなる。
………もうこうなったら楽の用意してくれた舞台を使わせてもらおう。
ボクは一歩ずつ彼女に近づいていった。
「ねぇ、君の好きな人ってボクの知っている人?」
「えっ……!」
じりじりと近づくたびに彼女も一歩ずつ下がっていく。
「答えなよ。答えるまで帰さない」
BARのカウンターまで追い詰めると、彼女を逃さないようにカウンターに手をついた。
顔が真っ赤だ、可愛い。
「ど、どうしてそんなに私の好きな人を知りたいんですか?」
「そんなの決まってるでしょ……」
カウンターについていた両手を離し、彼女の腰をそっと搔き抱いた。
小さな悲鳴が聞こえたがそんなの気にしている暇はなかった。
「ボクは………君が好きなんだ………」
「えっ……そ、れは……」
「恋愛対象として君が好きってこと。だから、君の好きな人が知りたかったの……」
拒絶されるかもしれない、それでも抱きしめる腕を緩めなかった。
「わ、私の好きな人は……優しくて繊細で、今も私を抱きしめながら震えてる人です」
「え………」
少し身体を離して彼女の顔を覗くと、ボクを愛しそうに見つめていた。
「私の好きな人は、九条天さん。あなたです」
「うそ………」
上手く状況が理解できない。
「こんな時に嘘なんて吐きません。ありがとうございます、私を好きだと言ってくれて………私も好きです」
「好き」という言葉を聞いた瞬間涙が止まらなくなった。
そして、例の苦しみがボクを襲った。
「う、うぅ…」
「九条さん!?」
しゃがみこんで吐くと、ボクの手には白銀の百合があった。
